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ルカ(聖夜月ルカ)

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079 : オアシスの村へ

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「リュック…
それを言うなら、私が一番良くないんだ。
震災の町でみつけたあの石を、ユベールに渡してしまったんだから…」

「それは…
マルタン…あんたはすごいな。
俺だったら、一人ではきっと決められないぜ。
命の重みは変わらない…
それをどっちか一つだけに決めるなんて…俺には無理だ。」

「そうね…マルタンさんは、さぞお辛かったことでしょうね…」

「多分、どちらに渡していても私は後悔していたと思います。
選ばなかった方への罪悪感に押し潰されそうになったでしょう。
でも、リュックのおかげで私も救われました。
これで…ジャクリーヌも助かるんですから…」

「本当にありがとう、リュック!」

私達の視線に、リュックは顔を赤らめた。



「と、とにかく、あとはこれをジャクリーヌの所へ持って行くだけだな!」

「そうだわ!
私、先日地図を見ててふと思ったんですが…」

そう言いながら、クロワは地図をテーブルの上に広げた。



「見て下さい。
ここからだと、来た道を戻るよりもこの山を越えた方が、ジャクリーヌの住む町へは近いと思いませんか?」

「そうだな。
こっちから行く方が、距離的にはずいぶん近いんじゃないか?」

「ただ、問題はどの程度の山かってことだな。
もしも、険しい山だったり迷ったりしたら、却って時間がかかるってことにもなりかねないぞ。」

「迷うってことはまずないな。
俺も山ならけっこうわかるつもりだし、クロワさんもいるしな。
俺達は足腰も丈夫な方だし…
へたばる可能性があるのはマルタンだけだな。」

「よく言ってくれるな…」

「そうだわ、私、アダムさんに聞いてみます。」

クロワはそう言って、部屋を飛び出した。







アダムの話によると、幸いなことにそれほど険しい山ではないらしい。
私達は手前の町に立ち寄って準備を整えた後、そこから山を越えてジャクリーヌの住む町へ向かう事に決めた。

精神的にも肉体的にも辛かった日々は終わった。
山越えの辛さなど、ここでの過酷さに比べたら何と言う事はないだろう。
それよりも、心の重石が取れたことが一番の原動力になる。
もうジャクリーヌの心配はなくなったのだから…



次の朝、私達は、オアシスの村を旅立った。
ここでの調査は諦めたという口実を付け、アダム達に別れを告げた。 
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