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ルカ(聖夜月ルカ)

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071 : 顔のない天使

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「私はあなたのために言ってるのよ。
なにかあったらどうするの!?」

「何も起こりゃあしないさ。
あの天使は、きっと悪いものなんかじゃない。」

「どうして、あなたにそんなことがわかるの!?」

「だって、クロワさん、あれは天使なんだぜ!
天使は、人々を助けてくれるものだって決まってるじゃないか。」

「でも、あの天使は翼をもぎ取られていた…
それに顔も…
それに…それに…
……あの天使は、きっと神様に翼をもぎ取られた天使なんだわ。
人々になにか害を与えるような悪いものなんだわ…」

クロワの顔は青ざめ、その身体は小刻みに震えているように見えた。



「そんなことはない。
あの天使は、きっと優しい顔をしてたんだと思う。
でも、波にもまれてるうちに顔も翼ももげたんだ。」

「……波に?」

「そうさ。
あの天使は海の底から助け出されたって、あの天使像を持ってた男が言ってたらしいんだ。」

「海の底に…
……きっと、投げ捨てられたんだわ…」

「クロワさん、なんでそんなことばかり言うんだ。
今日のクロワさん、なんだかおかしいぜ!」

「おかしくなんかないわ!
どうしても、祠を直したいなら好きにしなさい。
私はこの町にいるのもいや!
明日の朝、先に隣町に行きます!」

「クロワさん!!」

クロワはそのまま部屋を出て行ってしまい、何度声をかけても返事すらしなかった。
リュックの言う通り、今日のクロワはいつもとは違う。
あんなに激昂したクロワは、今までに見た事がない。




「マルタン…
なんで、クロワさんはあんなに怒るんだろう?」

「私にもそれがわからない…
まるで、なにかに怯えているみたいだな。」

「あの天使像がそんなに怖いんだろうか?
マルタン、あんたはどう思った?」

「確かに、顔がないことには少し驚いたが、私は、特にいやな印象はなかった。
いや…」

「どうしたんだ?」

「たいしたことじゃないんだが…どちらかというと、安心感みたいなものを感じたように思ったんだ。」

「俺もなんだ!
だから、すぐに手が伸びた。
触っても怒られないような気がしたんだ。」

「そうか…君もか…
やはり、女性と男性では感じ方も違うものなのかもしれないな。
女性は、顔がないということに、なにか恐怖を感じるんだろうな。
とにかく、今日はもう無理そうだ。
明日の朝、もう一度話し合ってみよう。」 
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