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ルカ(聖夜月ルカ)

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071 : 顔のない天使

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「そうだ!きっとあれだ!」



祠がみつかったおかげで、私達の疲れきった身体にも少し元気が甦った。
私達は、軽さを取り戻した足で祠に向かって駆け出した。

祠の屋根は朽ち果て、かろうじて雨露をしのげる程度だ。
扉にも穴が開いていた。



「ひどいな、こりゃ…」



今にもはずれてしまいそうな扉を開けると、そこにその像はあった。
思っていたよりも小さい石像だ。



「なんだ、これは!」



像の前に立った私達は、その女神像の姿に驚愕した。
その像の顔は、明らかに削り取られていたのだ。



「どうしてこんなことを…なんだか気味が悪いわ…」

「なんで、顔がないんだろう?」

リュックは、その像を手に取ってまじまじと見つめている。



「リュック、触って大丈夫なの?!」

「あぁ、大丈夫だ。
……あ、これは女神じゃなくて天使じゃないか?
羽根がもぎ取られたみたいになってる。
それにこの十字架…」

「十字架…?」

女神像をのぞきこんだクロワの顔が一瞬にして色を失った。



「リュック、そんなもの触ってはだめ!!
早く、元の場所に戻しなさい!」

叫ぶようにそう言うとクロワは祠の外に走り出た。
クロワは、そのままその場にしゃがみこみ、肩で大きく息をしている。



「大丈夫ですか、クロワさん。
顔色が真っ青ですよ…」

「え…ええ…大丈夫です。」

「どうしたんだ?クロワさん。」

「リュック、あれはきっと良くないものだわ…
早く、山を降りましょう!」




「馬鹿なことを言うもんじゃない!!」



突然の声に驚き振り向くと、そこには腰の曲がった小柄な老婆が立っていた。



「この天使様はとてもありがたいものじゃ!
私達を、悪いものから守って下さるありがたい天使様なんじゃ!」

「婆さん、この女神像について詳しいのか?
なにか知ってたら教えてくれよ。」

「リュック、そんなこと聞かなくても良いじゃないの。
私は先に下りてるわよ。」

「あ、クロワさん!」

クロワは後ろも振り返らずに逃げようにその場を立ち去ってしまった。
それほどまでに、あの顔のない像が気持ち悪かったのだろうか…
私はクロワの後を追うべきか、どうしたものかと考えているうちに、彼女の姿はすでに見えなくなっていた。 
 
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