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071 : 顔のない天使
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小屋に帰ってからのリュックは、口数も少なく沈んで見えた。
けっこうな量を飲んでいたはずだが、酔っている様子もまるでない。
強がってはいるが、ナディアのことが気になっていることは間違いない。
旅立ちの準備ももうとっくにすんでいるというのに、リュックはなかなか横になろうとはしなかった。
「リュック、女神像のことなんだが…」
この気まずい雰囲気をなんとかしようと、私はそんなことをリュックに尋ねてみた。
「あぁ、女神像なら、距離的にはそこそこあるけど、この街道沿いの町にあるらしいから迷うことはないだろうってさ。」
「そうか…
なら、安心だな。」
そう言ったっきり、また長い沈黙が訪れた。
「すっかり遅くなってしまったな。
さて、明日は早いしもう休もうか。」
「……マルタン…勝手ばかり言って悪いんだけど、明日はちょっと早めに発たないか?」
「早めに?
私は別にかまわないが…どうした?
なにか用でもあるのか?」
「いや、そうじゃないんだけどな。」
「……わかった。
なら、良い時間に起こしてくれるか?」
「すまないな…」
私が横になっても、リュックはまだテーブルに座りこんでいた。
なにかをするでもなく、ただ、遠くをみつめるような目をして…
そんなリュックのことが気にかかりながらも、私はいつの間にか眠りに就いていた。
*
「マルタン!起きてくれ!」
リュックの声で私は目が覚めた。
「どうしたんだ、リュック?」
「そろそろ行こうか…」
「なに?もう行くのか?」
私ははっきりしない頭を無理矢理に叩き起こし、身支度を整えると小屋を出た。
何時なのかはわからないが、あたりは、まだ真っ暗だった。
リュックは、ドニスの屋敷の方をしばらくみつめていたが、やがて黙って歩き出した。
私も、黙ったままで彼の後を着いて行く。
クロワのいる薬屋が見えて来た頃、ようやく空が白み始めて来た。
クロワは私達が訪ねたのが早かったことに少し驚いたようだったが、すでにでかける準備は出来ていたらしくしばらくするとすぐに出て来た。
今、起きたばかりなのだろうか、寝癖のついた髪をした薬屋のアルバンが、クロワの手を握り、とても名残惜しそうな顔をしている。
けっこうな量を飲んでいたはずだが、酔っている様子もまるでない。
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「あぁ、女神像なら、距離的にはそこそこあるけど、この街道沿いの町にあるらしいから迷うことはないだろうってさ。」
「そうか…
なら、安心だな。」
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「すっかり遅くなってしまったな。
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「いや、そうじゃないんだけどな。」
「……わかった。
なら、良い時間に起こしてくれるか?」
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なにかをするでもなく、ただ、遠くをみつめるような目をして…
そんなリュックのことが気にかかりながらも、私はいつの間にか眠りに就いていた。
*
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「どうしたんだ、リュック?」
「そろそろ行こうか…」
「なに?もう行くのか?」
私ははっきりしない頭を無理矢理に叩き起こし、身支度を整えると小屋を出た。
何時なのかはわからないが、あたりは、まだ真っ暗だった。
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私も、黙ったままで彼の後を着いて行く。
クロワのいる薬屋が見えて来た頃、ようやく空が白み始めて来た。
クロワは私達が訪ねたのが早かったことに少し驚いたようだったが、すでにでかける準備は出来ていたらしくしばらくするとすぐに出て来た。
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