お題小説

069 ： 至福の喜び

１３

「実を言うとな…俺もあいつのことは一目見た時から、なんとなく気になってたんだ。
あいつは若い頃の俺に似てる。
あいつなら、きっとナディアのことをしっかり守ってくれるんじゃないかと思ってな。
結婚したら、ナディアにちょっかいを出してくる奴もいなくなるだろうし、そうなりゃ俺も安心だ。
リュックには家族もいないんだから、このままここで暮らしてもらえば良い。
そうなりゃ、農場のことも心配なくなるし、俺も一生ナディアと一緒に暮らしていけるしな。
誰にとっても良いことだと思わねぇか？
そう思ったら、早く二人をくっつけたくなってな！」

ドニスは、すでに二人の結婚が決まったかのように上機嫌だ。
確かに彼の言う通り、リュックなら農場の仕事も立派にやりこなすだろう。
故郷のことも心配する必要はない。
ドニスともきっとうまくやっていけるだろう…なにより、ドニスはリュックのことを気に入っているのだから。
つまり、リュックはナディアにとっても彼にとっても農場にとっても、最適な人物だということだ。
だからこそ、なんとしてもリュックをナディアと結婚させたいと考えたのだろうが、それにしてもその決断と行動の早さには驚いてしまう。

その晩は、ドニスと酒を酌み交わしながらナディアの幼い頃の思い出話をさんざん聞かされた。
そして、そのまま、私はドニスの屋敷で眠り込んでしまった…



＊



「おい、マルタン！起きろ！」




 肩を叩かれ、目が覚めたのはドニスの屋敷の食堂だった。
まだ、頭がぼんやりとしている私とは違い、ドニスはさっぱりとした顔をしている。

冷たい水で顔を洗っても、まだ頭の中はしゃっきりとはしなかった。
時折、頭が痛む。

その時、庭先に一台の馬車が停まり、ナディアとリュックが降りてきた。



「リュック！」

「マルタン、どうしたんだ？こんな所で…」

そこへドニスが現れ、私達は、皆、食堂へと向かった。
食卓には、馬車を操っていた男もいた。
二人の息子達も揃い、食卓はいっぱいになっていた。
昨夜のことをリュックに尋ねたかったのだが、ドニスに急きたてられるようにあわただしく朝食を食べると、各自は仕事場へ散らばって行った。
息子達とリュックは農場に、ナディアは朝食の片付け、そして私も農場へ向かおうとした時、ドニスに呼び止められた。