お題小説

ルカ(聖夜月ルカ)

文字の大きさ
上 下
451 / 641
069 : 至福の喜び

しおりを挟む
「リュック、いるか?」

扉を叩く音と大きなその声に、けだるそうな表情をしたリュックが顔を出す。



「なんだよ、今日は休みのはずだろ?」

「そういうなよ。
実は、ちょっとした用事を頼みたくてな。
なぁに、たいしたことじゃないんだ。」

「何なんだよ……あ……」

リュックは、ドニスの身体に隠れるように立っているナディアの姿に気が付いた。



「実はな、隣町のしりあいの所に果物を届けてほしいんだ。
いや、それはナディアが行くことになってるんだが、ナディア一人で遠歩きをさせるのが心配でな。
それで、あんたについていってやってほしいと思ったんだ。」

「そ、そんなことなら、あんたが行けば良いじゃないか。」

「それが、あいにくと俺はあれこれ用があってな。
……まぁ、いやなら別に良いんだ。
マルタンにでも頼むとしよう。」

「ベ、別に、いやだなんて言ってないじゃないか。
第一、マルタンは出かけていて留守だ。
……し、仕方ない。ついていってやるよ。」

「そうか、そいつは助かる!
じゃあ、よろしく頼むぜ!」

ドニスは、リュックの肩を叩くと、ナディアを残しさっさと帰って行った。




「あ…ちょっと待っててくれよ。
すぐに着替えてくるから。」

「はい。」

ものの五分もしないうちに、身支度を整えたリュックが現れた。



「じゃあ、行こうか。」

「ええ…」

街道を歩く二人の距離は、妙に離れている。
話もしないままに二人は歩き続け、その長い沈黙に耐え兼ねたリュックがついに口を開いた。



「あ…あの…この前は、酒をありがとうな。」

「い、いえ…あの日はお店がお休みでしたから、手に入らなかったんじゃないかと思いまして…」

「……あんたは、本当によく気が付くんだな。」

「そ、そんなこと…」

そしてまた、しばらくの沈黙が続いた。



「あの…リュックさん、隣町まではまだ少しかかります。
ここらでお昼でも食べていきませんか?
ランチを用意して来ましたから。」

「そうか…そいつはありがたいな。」

二人は、木陰に腰を降ろし、ナディアの持って来たサンドイッチを頬張った。



「本当にナディアは料理がうまいな!」

「いやだわ、リュックさん。
こんなもの、料理のうちには入りませんよ。
パンにハムや野菜をはさんだだけですもの。」

 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約者様、王女様を優先するならお好きにどうぞ

曽根原ツタ
恋愛
オーガスタの婚約者が王女のことを優先するようになったのは――彼女の近衛騎士になってからだった。 婚約者はオーガスタとの約束を、王女の護衛を口実に何度も破った。 美しい王女に付きっきりな彼への不信感が募っていく中、とある夜会で逢瀬を交わすふたりを目撃したことで、遂に婚約解消を決意する。 そして、その夜会でたまたま王子に会った瞬間、前世の記憶を思い出し……? ――病弱な王女を優先したいなら、好きにすればいいですよ。私も好きにしますので。

システムバグで輪廻の輪から外れましたが、便利グッズ詰め合わせ付きで他の星に転生しました。

大国 鹿児
ファンタジー
輪廻転生のシステムのバグで輪廻の輪から外れちゃった! でも神様から便利なチートグッズ(笑)の詰め合わせをもらって、 他の星に転生しました!特に使命も無いなら自由気ままに生きてみよう! 主人公はチート無双するのか!? それともハーレムか!? はたまた、壮大なファンタジーが始まるのか!? いえ、実は単なる趣味全開の主人公です。 色々な秘密がだんだん明らかになりますので、ゆっくりとお楽しみください。 *** 作品について *** この作品は、真面目なチート物ではありません。 コメディーやギャグ要素やネタの多い作品となっております 重厚な世界観や派手な戦闘描写、ざまあ展開などをお求めの方は、 この作品をスルーして下さい。 *カクヨム様,小説家になろう様でも、別PNで先行して投稿しております。

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

異世界召喚に巻き込まれたおばあちゃん

夏本ゆのす(香柚)
ファンタジー
高校生たちの異世界召喚にまきこまれましたが、関係ないので森に引きこもります。 のんびり余生をすごすつもりでしたが、何故か魔法が使えるようなので少しだけ頑張って生きてみようと思います。

ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~

名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。

処理中です...