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069 : 至福の喜び
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「リュック、いるか?」
扉を叩く音と大きなその声に、けだるそうな表情をしたリュックが顔を出す。
「なんだよ、今日は休みのはずだろ?」
「そういうなよ。
実は、ちょっとした用事を頼みたくてな。
なぁに、たいしたことじゃないんだ。」
「何なんだよ……あ……」
リュックは、ドニスの身体に隠れるように立っているナディアの姿に気が付いた。
「実はな、隣町のしりあいの所に果物を届けてほしいんだ。
いや、それはナディアが行くことになってるんだが、ナディア一人で遠歩きをさせるのが心配でな。
それで、あんたについていってやってほしいと思ったんだ。」
「そ、そんなことなら、あんたが行けば良いじゃないか。」
「それが、あいにくと俺はあれこれ用があってな。
……まぁ、いやなら別に良いんだ。
マルタンにでも頼むとしよう。」
「ベ、別に、いやだなんて言ってないじゃないか。
第一、マルタンは出かけていて留守だ。
……し、仕方ない。ついていってやるよ。」
「そうか、そいつは助かる!
じゃあ、よろしく頼むぜ!」
ドニスは、リュックの肩を叩くと、ナディアを残しさっさと帰って行った。
「あ…ちょっと待っててくれよ。
すぐに着替えてくるから。」
「はい。」
ものの五分もしないうちに、身支度を整えたリュックが現れた。
「じゃあ、行こうか。」
「ええ…」
街道を歩く二人の距離は、妙に離れている。
話もしないままに二人は歩き続け、その長い沈黙に耐え兼ねたリュックがついに口を開いた。
「あ…あの…この前は、酒をありがとうな。」
「い、いえ…あの日はお店がお休みでしたから、手に入らなかったんじゃないかと思いまして…」
「……あんたは、本当によく気が付くんだな。」
「そ、そんなこと…」
そしてまた、しばらくの沈黙が続いた。
「あの…リュックさん、隣町まではまだ少しかかります。
ここらでお昼でも食べていきませんか?
ランチを用意して来ましたから。」
「そうか…そいつはありがたいな。」
二人は、木陰に腰を降ろし、ナディアの持って来たサンドイッチを頬張った。
「本当にナディアは料理がうまいな!」
「いやだわ、リュックさん。
こんなもの、料理のうちには入りませんよ。
パンにハムや野菜をはさんだだけですもの。」
扉を叩く音と大きなその声に、けだるそうな表情をしたリュックが顔を出す。
「なんだよ、今日は休みのはずだろ?」
「そういうなよ。
実は、ちょっとした用事を頼みたくてな。
なぁに、たいしたことじゃないんだ。」
「何なんだよ……あ……」
リュックは、ドニスの身体に隠れるように立っているナディアの姿に気が付いた。
「実はな、隣町のしりあいの所に果物を届けてほしいんだ。
いや、それはナディアが行くことになってるんだが、ナディア一人で遠歩きをさせるのが心配でな。
それで、あんたについていってやってほしいと思ったんだ。」
「そ、そんなことなら、あんたが行けば良いじゃないか。」
「それが、あいにくと俺はあれこれ用があってな。
……まぁ、いやなら別に良いんだ。
マルタンにでも頼むとしよう。」
「ベ、別に、いやだなんて言ってないじゃないか。
第一、マルタンは出かけていて留守だ。
……し、仕方ない。ついていってやるよ。」
「そうか、そいつは助かる!
じゃあ、よろしく頼むぜ!」
ドニスは、リュックの肩を叩くと、ナディアを残しさっさと帰って行った。
「あ…ちょっと待っててくれよ。
すぐに着替えてくるから。」
「はい。」
ものの五分もしないうちに、身支度を整えたリュックが現れた。
「じゃあ、行こうか。」
「ええ…」
街道を歩く二人の距離は、妙に離れている。
話もしないままに二人は歩き続け、その長い沈黙に耐え兼ねたリュックがついに口を開いた。
「あ…あの…この前は、酒をありがとうな。」
「い、いえ…あの日はお店がお休みでしたから、手に入らなかったんじゃないかと思いまして…」
「……あんたは、本当によく気が付くんだな。」
「そ、そんなこと…」
そしてまた、しばらくの沈黙が続いた。
「あの…リュックさん、隣町まではまだ少しかかります。
ここらでお昼でも食べていきませんか?
ランチを用意して来ましたから。」
「そうか…そいつはありがたいな。」
二人は、木陰に腰を降ろし、ナディアの持って来たサンドイッチを頬張った。
「本当にナディアは料理がうまいな!」
「いやだわ、リュックさん。
こんなもの、料理のうちには入りませんよ。
パンにハムや野菜をはさんだだけですもの。」
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