お題小説

069 ： 至福の喜び

８

もしも、このままリュックとナディアの恋が順調に育てば…
きっと、彼はここでドニスの跡を継いで働きながら、美しいナディアと幸せな家庭を築くことが出来るだろう。
それこそが、彼が長年求めていたものではないだろうか…
長い長い時を、ずっと一人で生き抜いて来た彼に、やっと安息の場所が出来るのだ。



（どうか、彼とナディアがうまくいきますように…）



私はそう心の中で呟いた。



次の休日、私は、朝早くに小屋を出てクロワのいる薬屋へ向かった。
そして、そこでクロワに現在のリュックの状況を話した。



「そういうわけなので、せめて、あと一週間…この町に滞在したいのです。
その間に、彼に少しはっぱをかけてみます。
ナディアとの仲が進展すれば、彼はきっとこの地に残りたいと言い出すと思うのです。
そうすれば、この先は彼のことを気にする事なく、陽炎の化石を探しにいくことが出来ます。
それに…彼には幸せになってほしいから…」

「…わかりました。
私もその気持ちはマルタンさんと同じです。
リュックにそんな良いお話が舞いこんでいたなんて、ちっとも知りませんでした。
娘さんのお父さんまでが賛成して下さってるのなら、きっとうまくいきますよ。
あと少し、様子を見てみましょう。」

「ありがとう、クロワさん。」

「マルタンさんは、リュックのことを本当の弟みたいに感じてらっしゃるのね。」

「……そうかもしれませんね。」

私にはそうとしか言えなかった。
リュックに隠された秘密のことを知れば、クロワもきっと私のような気持ちになるはずだ。
なんとしても、彼には幸せになってほしいという殊更に強い気持ちに…