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ルカ(聖夜月ルカ)

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066 : お家芸

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「この人達に一部屋譲ってやってくれ。」

「えっ?しかし…」

「俺は、いつも通り馬車の中でも良かったのに、わざわざ宿まで取ってもらって…
しかも、ジーナと別々の部屋になんてすることはないんだ。
俺はジーナと一緒の部屋で過ごすから、その分をこの人達にまわしてやってくれ。」

「そりゃあ、ありがたいが本当にいいのかい?」

「ああ、いいさ。
 三人で一部屋だと手狭かもしれないが、良かったら使ってくれ。
あ、俺はガスパールってもんだ。
よろしくな!」

「ありがとう!
助かったよ。
俺はリュック、こっちはマルタンとクロワさんだ。」

「ガスパールさん、ありがとうございます。」

「いいんだ、気にしないでくれ。困った時はお互い様だ。
ところで、あんた達も興行を見に来てくれたのか?」

「そうなんだ!
あんたは、一座の人らしいが何をやってるんだ?」

「俺はナイフ投げだ。」

「ナイフ投げ!
そいつはすごいな!」

「ガスパールさん、部屋を譲っていただいたお礼に今夜ご馳走させていただけませんか?」

突然のクロワの申し出に私は少し驚いたが、彼女は陽炎の化石にまつわる話を聞きたいのだとすぐに理解した。



「そいつはありがたいんだが、今夜は、あいにく先約があるんだ。
興行主や町のお偉いさんとのつまらない会食なんだが、出ないわけにもいかなくてな。」

「そうですか…
では、明日は…?」

「興行中は、あんまりそういうことは出来ないんだ。
慣れてることとはいえ、集中力を必要とする技だからな。
一瞬の気の緩みが大変なことになっちまう。
最終日の深夜なら大丈夫なんだが…」

「最終日……ええ、構いません!
では、最終日にぜひよろしくお願いします。」



私達はガスパールのおかげで、宿に泊まれることになった。
ガズパールは、明日の準備があるとかでそのまま外へ出て行った。



「クロワさん、どうしたんだ?
えらく熱心に食事に誘ってたけど、もしかしてガスパールの事が気に入ったのか?
まぁ、確かに男前だが、あいつには女がいるらしいじゃないか。」

「馬鹿ね、そんなんじゃないわ。
私は純粋に部屋を譲ってもらったことのお礼がしたかっただけよ。」

「じゃあ、差し入れでも良いじゃないか。」

「まぁ、それはそうなんだけど…」
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