お題小説

065 ： 陽炎の化石

１

彼は、あの病気を小人に治してもらったと言っていた。



「クロワさん、もしかしてエドモンさんを助けた小人を探そうと思ってらっしゃるのですか？」

「まさか…いくら私でもそんなことは信じていませんわ。
でも、人間の心の作用というのは思いの外大きなものです。
エドモンさんは、もしかしたらエリックの話す御伽噺を信じこみ、そして、エリックのためにももっと生きたいという強い想いのおかげで治ったのではないかと思えるのです。」

「そんなことがあるのですか？」

「あるにはあります。
……でも……とても、稀なことです。
世の中では奇蹟と呼ばれる位に…
だからこそ、もっと現実的な治療法を探していたのですが…みつからなくて…」

そう呟くクロワの瞳には、うっすらと涙がたまっていた。



「……とにかく、このことは私達だけの胸におさめておくことにしましょう。
リュックには言わない方が良いですね。」

「もちろんです。
私は、本当はマルタンさんにも言うつもりはなかったのです。」

「辛い事をあなた一人で抱え込むことはありません。
私は力のない人間ですが、あなたの心の負担を少しくらいなら軽くすることが出来るかもしれません。
これからも、なにかあったら私に話して下さい。」

「マルタンさん…」



＊



「アデリーヌとの話はもう済んだのか？」

「あぁ…」

「しかし、あの子、ちょっと見ないうちになんだか雰囲気が変わったな。
マルタンに恋したおかげなのかな？」

「馬鹿なことを言うなよ。彼女はまだ子供だ。
ところで、あの本はもう読み終えたのか？」

「いや、まだだ。けっこう分厚い本だからな。
今は、ここ、『陽炎の化石』ってとこを読んでるんだ。」

「陽炎の化石？
何なんだ、それは？」

「なんでも、不治の病を治すものらしいぜ。」

「不治の病を…！？
どうやって？」

「だから、今、読んでる途中なんだって。
よかったら、一緒に読むかい？」

私はリュックの横に並んで座り、二人の間にあの本を置いて読み始めた。