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062 : 恩赦
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「どうですか?パスカルさんの具合は?」
「お医者様が、まだ安心とは言えないが最悪の危機は乗りきったっておっしゃってました。」
「そうですか…それは一安心ですね。
あなたの血が、お父様の命を救ったのですね。」
「そんなこと…」
昨夜はよくわからなかったが、その娘はパスカルによく似ており、繊細な印象の美人だった。
年はリュックと同じくらいだろうか…もちろん、リュックの見た目の年のことだ。
顔立ちだけを一見するともう少し上にも見えるのだが、声やしぐさはまだ初々しい少女のようにも見える。
「昨夜は本当にお世話になりました。
私はパスカルの妻・ノエル、それと、娘のジャクリーヌです。」
「申し遅れました。
私はマルタン、そして…」
「リュックだ。よろしくな!」
リュックはそう言いながら、夫人に握手を求めたがその視線はジャクリーヌの方に向いていた。
「それで、ノエルさん…
伺ってよろしいでしょうか?パスカルさんのことを…」
「……ええ。
お話させていただきます。」
パスカル夫人がぽつりぽつりと話し始めた内容は、驚くべきものだった。
この男・パスカルは、殺人者として長い間投獄されていたのだという。
旅先で、たまたま立ち寄った宿の主人が殺害され、その遺体を発見した所を別の泊り客に見られたことから、パスカルの仕業だと思われたということらしい。
「主人は無実なんです。
主人は、そんなことが出来るような人間ではありません。
とても真面目で、気の優しい人なのです。
それに殺す動機もありません。
しかし、私達の主張は聞き入れられず、そのまま無期懲役となってしまったのです。
この子がまだ三つの時のことでした…」
「そんなに長い間!
では、なぜ、そのパスカルさんがあんな所へ?」
「それは私にもわかりません。
主人は、私達に危害が及ぶのを怖れ、決して面会にも来ないようにと言いました…
自分はきっと一生ここから出られることもないだろうから、もう死んだものと諦めてくれとも言いました。
それでも、私は会いに行ったのですが、彼は一度として会ってはくれませんでした。
それどころか手紙すら受け取ってはくれなかったのです。」
「ひどい話だな、まったく…!
無実の罪でそんなに長い間、この人は刑務所に入れられてたってわけか…気の毒なんてもんじゃないな!」
「どうですか?パスカルさんの具合は?」
「お医者様が、まだ安心とは言えないが最悪の危機は乗りきったっておっしゃってました。」
「そうですか…それは一安心ですね。
あなたの血が、お父様の命を救ったのですね。」
「そんなこと…」
昨夜はよくわからなかったが、その娘はパスカルによく似ており、繊細な印象の美人だった。
年はリュックと同じくらいだろうか…もちろん、リュックの見た目の年のことだ。
顔立ちだけを一見するともう少し上にも見えるのだが、声やしぐさはまだ初々しい少女のようにも見える。
「昨夜は本当にお世話になりました。
私はパスカルの妻・ノエル、それと、娘のジャクリーヌです。」
「申し遅れました。
私はマルタン、そして…」
「リュックだ。よろしくな!」
リュックはそう言いながら、夫人に握手を求めたがその視線はジャクリーヌの方に向いていた。
「それで、ノエルさん…
伺ってよろしいでしょうか?パスカルさんのことを…」
「……ええ。
お話させていただきます。」
パスカル夫人がぽつりぽつりと話し始めた内容は、驚くべきものだった。
この男・パスカルは、殺人者として長い間投獄されていたのだという。
旅先で、たまたま立ち寄った宿の主人が殺害され、その遺体を発見した所を別の泊り客に見られたことから、パスカルの仕業だと思われたということらしい。
「主人は無実なんです。
主人は、そんなことが出来るような人間ではありません。
とても真面目で、気の優しい人なのです。
それに殺す動機もありません。
しかし、私達の主張は聞き入れられず、そのまま無期懲役となってしまったのです。
この子がまだ三つの時のことでした…」
「そんなに長い間!
では、なぜ、そのパスカルさんがあんな所へ?」
「それは私にもわかりません。
主人は、私達に危害が及ぶのを怖れ、決して面会にも来ないようにと言いました…
自分はきっと一生ここから出られることもないだろうから、もう死んだものと諦めてくれとも言いました。
それでも、私は会いに行ったのですが、彼は一度として会ってはくれませんでした。
それどころか手紙すら受け取ってはくれなかったのです。」
「ひどい話だな、まったく…!
無実の罪でそんなに長い間、この人は刑務所に入れられてたってわけか…気の毒なんてもんじゃないな!」
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