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ルカ(聖夜月ルカ)

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062 : 恩赦

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 「かなり悪いな。
出血のせいで、血圧がひどく低下している。」

「輸血は?
輸血はされないんですか?
血が必要なら、私の血を使って下さい!」

「クロワさん、人間の血には、いくつかの型があるんだ。
どれでも合うというわけではないんですよ。
それにここでは血液型を調べることも出来ない。」

「そんな…」

「もしも、この人にお子さんでもいらっしゃったら…
全部が全部ではないが、親子なら同じ型の場合が多いんですよ。」







「ここだ!奥さん、早くこっちへ!」

私達は、診療所に着くと、あの男の部屋へ急いだ。
部屋の扉を開けた瞬間から、あの男の容態が切羽詰った状況だということが、医学の心得のない私にもみてとれた。



「あ、あなた!!」

「では、この方はパスカルさんなんですか?!」

「そ、そうです!
ずいぶんとやつれてますが、自分の夫を見間違えるはずはありません。
でも、なぜ、この人がこんなことに…?!」

夫人は、夫のベッドの横に泣き崩れた。



「あなたは、この方の娘さんですか?」

「は、はい。」

「この方は、今、早急に血液を必要としておられます。
あなたの血をいただけないでしょうか?」

「は、はい!わかりました!」

すぐに準備がされ、パスカルの娘の血がパスカルの身体に流れていく。
 人間の血液にはいくつか型があり、それがあわないと血は固まってしまうのだとどこかで聞いたことを思い出した。
リュックの言う通り、こういうことは覚えているのに自分自身のことだけがまるで封印されたように思い出せない…
封印…そう、私の記憶は封印されたものなのかもしれない。
ティアナの言ったことを考えれば、それは相当に不吉なもの…
思い出してはいけない記憶なのだから…




「良かった…!
娘さんの血液と合っているようです。
これで、なんとか持ち直してくれれば良いのですが…」



その晩、私とリュックは診療所の一室で休んだが、パスカルの夫人や娘、クロワは一晩中、彼の傍にいたようだ。

次の朝、私達がパスカルの部屋に行くと、皆、疲れてはいたが少しほっとしたような表情をしていた。 
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