お題小説

ルカ(聖夜月ルカ)

文字の大きさ
上 下
398 / 641
059 : 吉報

しおりを挟む
「どうしたんだ?なにかいやな手紙なのか?」

「…出版社からですよ。」

「出版社?なんでそれがいやな手紙なんだ?」

「私は原稿を出版社に送っているのですが、戻って来るのはいつも不採用の通知ばかり…
それでも、やめない私も馬鹿なんですが…」

「ジュスタンさん、中も見ないで不採用だと決めつけるのはどうかしら?
今度は採用かもしれませんよ。」

「そんなことありませんよ。見なくてもわかってますって。」

「よし、じゃあ、俺が見てやろう!」

リュックはそう言うと、ジュスタンの手紙をポケットから引き出し、べりべりと封を開け始めた。



「リュック、よせ。失礼じゃないか。」

私の声にも知らん顔で、リュックは中の書類を読み始めた。



「ジュスタンさん!やったじゃないか!」

「え…?!」

「すごいじゃないか!
あんたの小説を本にしたいって書いてあるぜ!」

「ま、まさか…!!」

ジュスタンは、リュックの持つ書類をひったくるように取って目を通すと、へなへなとその場に座りこんだ。



「ほ…本当だ…
私の書いた小説が本に…」

「今夜は祝杯をあげなきゃな!
マルタン、酒を買いにいこうぜ!
クロワさん、今日はご馳走を作ってくれよ!」

「ええ!任せといて!
そうだわ、ジュスタンさん!早くアデリーヌに知らせてあげて下さい!」

「そ…そうですね。」

ジュスタンは、足の力が抜けたようなおぼつかない足取りで図書館の中へ入って行った。



「すごいもんだなぁ…
ジュスタンは、才能があったんだな。」

「そうだな…」

酒屋へ行く道すがら、そんな話をしている時に私はあることを思い出した。



ティアナが言ったというあの言葉を…
ジュスタンの本をたくさんの人が読む…というのは、このことだったのではないか…?!



「マルタン、どうかしたのか?」

「いや……なんでもない。」



その晩は、ジュスタンを囲み、本の出版が決まった祝いの宴となった。
ジュスタン親子の幸せそうな笑顔に、私も心が安らいだ。 


 
しおりを挟む

処理中です...