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ルカ(聖夜月ルカ)

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058 : お母さんのぬいぐるみ

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「大丈夫ですよ、ジュスタンさん。
小さな子供がぬいぐるみと話をするのはよくあることですよ。
特に女の子はそうなんじゃないかしら?」

「そうですよ。
アデリーヌは、少し大人びた所はありますが、やはり幼い女の子なんですよ。
空想でそのクマのぬいぐるみと話をすることがきっと彼女の心の支えのようなものになっているのでしょう。
私も心配はないと思いますよ。」

「そういうものなのでしょうか…
それなら良いのですが…」

そう言ってジュスタンは小さく笑った。



「ジュスタンさんは小説家志望だということですが、アデリーヌはきっとあなたに似たんですよ。
想像力がなくては、小説は書けませんもの!」

「考えてみれば、私の方がアデリーヌよりもずっとおかしな奴なのかもしれませんね。
こんな年になって、叶うはずのない夢を追いかけてつまらない小説を書いているなんて…
その上、両親の遺してくれた土地や蓄えをこんなくだらないものに使ってしまって…」

「くだらないなんてことはありませんよ。
ここのおかげで助かっている人はたくさんいると思います。
子供達も、ここで本を借りて新しい世界を知ることが出来る。
素晴らしいことではないですか。
それにあなたの書かれる小説も、いつの日か認められる日が来るかもしれませんよ。
夢は、諦めたらそこでおしまいですからね。」

「……そうですね!
状況が許す限りは、このまま書きつづけていきたいと思います。
それに、この図書館も!」



昼過ぎから私は、またリュックの方の手伝いに戻った。
材料はすでに寸法通りに切りそろえられていた。



「君は、こんなことまで出来るんだな。」

「店の棚を作ったりしてたからな。
それから、ちょっとこういうことに興味が出て来て…ほら、うちにあったテーブルや椅子…
あれも、俺が作ったんだぜ。
あの掘っ建て小屋もな。」

「そうだったのか!
すごいじゃないか!」

「すごいなんてもんじゃないけど、とりあえず、あの家具達は長年使ってても平気だったから、丈夫には作れるんだと思うぜ。」

「たいしたもんだ。
機会があったら、私にも教えてくれよ。」

「やめときな。
あんたにこんな仕事は向いてないって。」

「どうせ、私には出来ないと思ってるんだろう…」

「そうじゃないさ。
人間には向き、不向きってもんがあるってことさ。
あんたには、もっと他に向いてることがあるんだ。
きっとこんなことよりももっと難しいなにかがな…」

 
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