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ルカ(聖夜月ルカ)

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057 : 図書館の奥

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反対側の道も、やはり同じような険しい山道だった。
どちら側から登って来ても、あの温泉は見つけるのは難しいと思われた。
私なら絶対にみつけ出せなかっただろう。
山に慣れたクロワとリュックだからこそ、見つけ出せたのだ。

朝早くに発ったというのに、麓に着いた頃には、もうあたりは薄暗くなっていた。



「寂びれた町だな…
ここには宿屋なんて、気の利いたものはなさそうだな。」

「良いじゃないか、ここんとこずっと野宿だったんだから。」

「野宿が続いてたからこそ、今日はちゃんと屋根のある所で休みたいんだよ。」

リュックの言うことももっともだが、ないものはないのだ。
諦めるより仕方がない。



「あ!あれ、ちょっと大きな建物があるぜ!
宿屋じゃないか?」

小さな町の片隅にその建物は佇んでいた。



「……違うようだな。
でも、なんだろう?ここ…」

「ここは図書館よ。」

後ろから聞こえた声に振り向くと、そこには赤毛の小さな女の子が立っていた。



「図書館?こんな寂びれた町にか?」

「そうよ。悪い?」

「悪かぁないけど…そうだ、お嬢ちゃん!
このあたりに宿屋…それがなけりゃあ、どこか俺達を泊めてくれそうな家はないか?」

「あなたたち、旅人なの?」

「まぁ、そんな所だな。」

「そう…それなら泊めてあげてもいいけど、それには少し条件があるわ。」

「何なの?お嬢ちゃん」

クロワがしゃがんで女の子と視線を合わせるように語りかけた。



「子供扱いしないで。
それに、私は『お嬢ちゃん』じゃないわ。
アデリーヌって名前があるのよ。」

「それは失礼しました。
アデリーヌさん、泊めていただけるための条件を教えていただけますか?」

アデリーヌの青い瞳がじっと私をみつめている。



「この中じゃあなたが一番まともみたいね。
気に入ったわ。
泊めてあげる。
こっちよ。ついて来て!」

少女は、図書館の扉を開けると私達の方を振り向きもせず、ずんずんと進んで行く。

図書館のつきあたりには、扉があった。
扉を開けると、少女はやっと私達の方を振り返った。



「こっちよ。」 
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