お題小説

055 ： 果樹園

３

「さぁ、マルタン、そろそろでかけるぞ！」



眠い目をこすり、私が目を覚ましたのは昨夜の酒場だった。
どうやら、あのまま眠り込んでしまっていたらしい。
おかしな態勢でも取っていたのか、身体のあちこちが痛む。



「リュック、どこへ行くつもりなんだ？」

「ちょっとした運動さ。」

リュックはそんなことを言いながら、笑っていた。



リュックが私を連れて行った先は、昨夜降りたばかりのジョセフの住むあの山だった。



「なんだ？ジョセフさんの所に忘れ物でもしたのか？」

その問いにリュックはまた微笑むだけだった。



「じいさん、いるか～？」



リュックの声が、山の中に響く。
私達は、ジョセフを探しながら、山の中を歩いていた。



「滝の裏で待っていた方が良いんじゃないか？
むやみに歩き回っていてもすれ違いになるかもしれないぞ。」

「仕方ない、そうするか。」



私達が、滝の裏の隠れ家に戻ってしばらくすると、やっとジョセフが戻って来た。




「あんたら…どうしたんじゃ？！なにか忘れものか？」

「あぁ、そんなもんだ。
今夜はまた泊めてくれよな。
ほら、土産だ！」

リュックはいつの間に手に入れたのか、酒瓶をジョセフの前に差し出した。



「おぉ～！気がきくじゃないか！」



そして、その晩は、またいつもと同じような酒盛りとなった。
リュックは、その間もまだここへ戻って来た理由を話さなかった。



次の朝、まだ夜が明け切らない時間にたたき起こされた私は、山の裏の船着場に連れて行かれた。



「さぁ、行くぞ！」



穏やかな波に揺られながら、舟は進んで行く。
夕方近くになった時、小島に着いた。
おそらくはここで一泊し、ローズの住む島へ行くつもりなのだろう。



「やっとわかったぞ、リュック。
君のやろうとしてることがな。」

「気付くのが遅いぜ、マルタン！」

リュックは、私の方を向いてにっこりと微笑んだ。