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053 : 無二の相棒
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「そんなことはないさ。
少なくともあんたやクロワさんはきっと俺みたいな馬鹿な暮らし方はしてないと思う。」
「リュック…それは買いかぶりというものだ。
クロワさんは、違うかも知れないが…
私は、おそらく君と同じように…いや、それ以上にひどい暮らしをしていたかもしれないぞ。
いや、その前に生きてはいないんじゃないかと思う。
私は過去のことは覚えてはいないが、自分の性格のようなものはそれなりにわかるつもりだ。
私は、決して強い人間ではない。
君のような環境に置かれたら、きっと生きるということに疲れてしまっていたと思う。
だけど、君は今までずっと生きてきた…
それだけでも、私から見れば十分偉いと思えるよ。」
「それは、俺がずっと逃げてたからだよ。
怖いことを考えないようにして、真実から目を逸らしてきたから生きてこられたんだ。」
「私は、逃げることがすべて悪いことではないと思ってる。
自分の実力がわかっていれば、勝負をする前に勝つか負けるかということがわかるじゃないか。
猛獣が待ち構えてる道に、丸腰で挑むことが正しいとは言えない。
そこを迂回して安全な道を進むことの方が、正しいのかも知れないぞ。」
「あんたは、たとえ話がうまいんだな。
以前は神父でもしてたんじゃないか?」
「もしくは詐欺師かな…」
私達は顔を見合わせて微笑んだ。
率直で屈託がなく、極めて明るく見える彼の心の闇は、私が思う以上に深くて暗いのだということを今更ながら思い知ったような気がした。
「リュック、これから、一緒に頑張ろうじゃないか…」
「なんだい、いきなり…」
「いや…私も、あまりにも取り柄がなさすぎると思ってな。
この前、これからは金を稼ぐために働こうとは言ったものの、私になにが出来るか考えたら、本当になにも思いつかなくてな。
情けない話だよ。」
「そんなことあるもんか。
あんたはきっとなんでも出来るさ。
肉体労働向きではないかもしれないけど…俺よりもきっと出来る事は多いさ。」
「いや、君の方が体力はあるし、見た目にも私よりずっと若いから、使ってくれる所はすぐにみつかると思う。」
「それなら良いんだけどな…」
「あぁ、きっと、そうさ。」
「……マルタン……」
「なんだ?」
リュックにしては珍しく、どこか話しにくそうに、しばらく間を置いてから、彼はやっと口を開いた。
「これからもずっと…俺と一緒に旅をしてくれるのか?」
彼の躊躇いの原因が、こんなことだったとは…
「あぁ、もちろんだとも。」
それは、嘘偽りのない私の気持ちだった。
少なくともあんたやクロワさんはきっと俺みたいな馬鹿な暮らし方はしてないと思う。」
「リュック…それは買いかぶりというものだ。
クロワさんは、違うかも知れないが…
私は、おそらく君と同じように…いや、それ以上にひどい暮らしをしていたかもしれないぞ。
いや、その前に生きてはいないんじゃないかと思う。
私は過去のことは覚えてはいないが、自分の性格のようなものはそれなりにわかるつもりだ。
私は、決して強い人間ではない。
君のような環境に置かれたら、きっと生きるということに疲れてしまっていたと思う。
だけど、君は今までずっと生きてきた…
それだけでも、私から見れば十分偉いと思えるよ。」
「それは、俺がずっと逃げてたからだよ。
怖いことを考えないようにして、真実から目を逸らしてきたから生きてこられたんだ。」
「私は、逃げることがすべて悪いことではないと思ってる。
自分の実力がわかっていれば、勝負をする前に勝つか負けるかということがわかるじゃないか。
猛獣が待ち構えてる道に、丸腰で挑むことが正しいとは言えない。
そこを迂回して安全な道を進むことの方が、正しいのかも知れないぞ。」
「あんたは、たとえ話がうまいんだな。
以前は神父でもしてたんじゃないか?」
「もしくは詐欺師かな…」
私達は顔を見合わせて微笑んだ。
率直で屈託がなく、極めて明るく見える彼の心の闇は、私が思う以上に深くて暗いのだということを今更ながら思い知ったような気がした。
「リュック、これから、一緒に頑張ろうじゃないか…」
「なんだい、いきなり…」
「いや…私も、あまりにも取り柄がなさすぎると思ってな。
この前、これからは金を稼ぐために働こうとは言ったものの、私になにが出来るか考えたら、本当になにも思いつかなくてな。
情けない話だよ。」
「そんなことあるもんか。
あんたはきっとなんでも出来るさ。
肉体労働向きではないかもしれないけど…俺よりもきっと出来る事は多いさ。」
「いや、君の方が体力はあるし、見た目にも私よりずっと若いから、使ってくれる所はすぐにみつかると思う。」
「それなら良いんだけどな…」
「あぁ、きっと、そうさ。」
「……マルタン……」
「なんだ?」
リュックにしては珍しく、どこか話しにくそうに、しばらく間を置いてから、彼はやっと口を開いた。
「これからもずっと…俺と一緒に旅をしてくれるのか?」
彼の躊躇いの原因が、こんなことだったとは…
「あぁ、もちろんだとも。」
それは、嘘偽りのない私の気持ちだった。
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