お題小説

ルカ(聖夜月ルカ)

文字の大きさ
上 下
350 / 641
048 : 枯れ井戸のウワサ

12

しおりを挟む
「うるせぇ!
それなら、宝はもう島のやつらが売っぱらっちまったと…そうだ!
きっと、そうなんだ!
この島の奴らはもう俺達の宝を売っぱらっちまってるんだ!
そうに違えねぇ!」

「なら、その金はどこにあるんだ?
どこにもそんな大金なんぞなかったぞ!」

「うるせぇ!!
……お頭には俺がうまく言うから、お前らは心配するな。
それで良いだろうが!
そんなことより、女だ!女を連れて来い!」



男達の前に五人の若い女達が連れてこられた。
皆、半狂乱になって泣き叫ぶ。



「うるせぇ!!びーびー泣くんじゃねぇ!
さぁ、お前達、好きな女を連れていけ!
あ、待て。こいつは俺がいただく。」

「なんだ、そいつは一番の上玉じゃねぇか!ずるいぞ!」

「後でまたおまえにもまわしてやるから待ってな!」



女達はそれぞれの男に引きずられるように連れていかれた。



「やめて~~~!!」

「助けて~~~!!」



あちらこちらから、女達の泣き叫ぶ声が聞こえる。

一人は、乱暴される前に舌を噛んで自らの命を絶った…



(……どうして、こんなことに…)



この村に出来た真新しい教会でファビオと結婚式を挙げる…
純白のウェディングドレスを身にまとい、みんなから祝福を受けて世界一幸せな花嫁に…

つい昨日まで、クラリスはそんな甘い夢を胸に描いていた。
なのに、今、自分の身に起こった現実はそれとはまるで違う…



(……夢なら良いのに…)



だが、クラリスにはわかっていた。
それが夢ではないということが…

虫けらのように殺されてしまった両親や友人も、
 何人もの海賊達に汚されてしまった自分自身もすべて現実だということが…



悪夢の一夜が終わり、身も心もずたずたに傷付いたクラリスは、不意に起きあがりボロボロになった山吹色のドレスを身に纏うと一目散に走り出した。



「女が逃げたぞ!
追え!!追え~~!!」


クラリスは走った。
後ろも振り向かず、止まりそうになる心臓で枯れ井戸の所まで走り抜けた。

しかし、海賊はクラリスのすぐそばまで近付いていた。
捕まるのは、もう時間の問題だ。



(さようなら…ファビオ…)



クラリスの身体が宙を舞い、その身体が重く湿った音と共に井戸の中に叩きつけられた。

 
しおりを挟む

処理中です...