お題小説

048 ： 枯れ井戸のウワサ

８

ファビオは、数年前から病気で寝たきりの父の代わりに、この村の村長としての仕事を引き受けている。
エディはファビオの家の使用人であり、彼が一番信用出来る男だ。
そして、美しいクラリスとは、将来を誓った仲だった。

三人は夜更けになるのを待ってファビオの家で落ち合い、人目を避けながらある場所へ向かった。



「懐かしいな。
ここへ来るのはもう何年ぶりだろう？」

「そうね…あの時は私達もまだ子供で…」

「無事に残ってますかねぇ？」

「大丈夫だと思うんだが…
とりあえず、私が様子を見てくる。」

「ファビオ、気をつけてね！」



ランプを持ったファビオが井戸の中へ降りていく。
深い深い枯れた井戸だ。
縄梯子の長さが少し足りなかったが、ファビオは身軽に下へは飛び降りた。
薄暗く、足元がよく見えないことで多少の不安は感じていたが、ファビオの身体はうまく着地することが出来た。



「ファビオ、大丈夫？」

「あぁ…大丈夫だ！」

 上から聞こえるクラリスの声に応え、ファビオはランプに火を灯す。



（あった…！）



井戸の側面に掘られた横穴。
そこは子供三人が隠れるにはちょうど良い大きさだった。
上からのぞいても、この横穴は見えない。
そのおかげで、探しに来た大人達にみつかることなく三人は遅くまで遊んでいられたのだ。

ファビオはそっとその中に入ってみた。



（……ここって、こんなに狭かったのか…）

「ファビオ！何してるの？
私も降りて良い？」

ファビオが懐かしい思い出に浸る間もなく、上からはクラリスの声が聞こえてきた。



「あぁ…良いよ！
エディ！荷物を降ろしてくれ！」



クラリスが縄梯子を伝って降りてくる。
縄梯子が足りない部分は、ファビオが支えてクラリスを抱き降ろした。



「懐かしいわね！
わぁ！ここってこんなに狭かったのね！」


クラリスが横穴に入ってはしゃいでると、上からは大きな箱が吊り降ろされて来た。
 海賊の宝を収めた箱だ。

ファビオはその箱を横穴の奥に隠し、茶色い布をかぶせた。



「さ、これでおしまいだ。
帰ろうか…」

「えっ！もう帰るの？」

「そうだ。
もし、誰かに見られたら困るからな。」

「こんな真夜中に、誰に見られるっていうのよ！」

「その油断がいけないんだ。
さ、帰るぞ！」

「今来たばかりなのに…」



不満げなクラリスの身体を抱き上げ縄梯子を上らせ、ファビオもその後に続いた。