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ルカ(聖夜月ルカ)

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042 : 友誼

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「では、早くに絵を届けて、店を手伝わないといけないな。
それとも、絵は夜にしようか?」

「いや、今日は頼まれた薬を届けるだけで店は出さないらしい。
奥さんに、オペラの話をたくさん聞かせてあげてくれって言ってたよ。」

「そうか…」



私とリュックは、夫妻の部屋を訪ねた。

夫人の方はまだベッドに横になっており、多少やつれた印象はあったが、それほど具合が悪いようにも見えなかった。
私達はオペラのチケットの礼を述べ、そしてジルベールのことを話し、肖像画を手渡した。
夫人は、その絵を見た途端に涙を流して喜んでくれた。

あまり長居をして夫人の身体に障っては申し訳ないと思ったのだが、夫人のたっての希望によりステージの様子やバスティア家の地下庭園の話をすることになってしまった。
話が進むうちに、夫人はベッドに上体を起こし、様々な質問を私達にぶつけてきた。
顔が上気しているのを見て熱が出てきたのではないかと私は心配したが、その心配は杞憂だったようで、夫人の口数と笑い声はどんどんと増していった。

気がつくと、すでに数時間が経過していた。



「失礼しました。
こんなに長い間、お邪魔してしまって…
奥様、お身体の方は大丈夫ですか?」

「ええ、ええ。
あなた方にお話を聞かせていただいたおかげで、どんなお薬よりも私には良い効き目があったみたい。
ここまで来て、オペラが見られなかったのはとても不運だったと昨夜までは嘆いていましたけど、こんなに楽しいお話を聞かせていただいて、そしてこんな貴重な肖像画をいただけたのだから、私は本当はとても幸運だったのね。」

「こっちこそ、感謝してるよ。
俺達なんて、一生かかっても見られるはずのないもんが見られたんだから。
本当にどうもありがとう!
あ、そうだ!
帰る前にジルベールさんの所に寄って行ったらどうだい?
あの人も大変なオペラ好きだから、きっと楽しい話が出来ると思うぜ!」

「え…でも…良いのかしら?」

「あぁ、ジルベールさんだって、奥さんみたいなオペラ好きの人と話が出来れば喜ぶと思うよ。
あの人は、この他の肖像画も持ってるし面白いものをいろいろ見せてくれると思うぜ!」

「まぁ!それは楽しみだわ!
リュックさん、ジルベールさんに紹介して下さる?」

「あぁ、そんなことならお安いご用さ!」



夫妻をジルベールに紹介することを約束し、私達は夫妻の部屋を後にした。
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