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ルカ(聖夜月ルカ)

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042 : 友誼

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「お帰りなさい!」

「クロワさん、まだ起きてらっしゃったんですか!」

「ごめんよ。すっかり遅くなってしまって…」

「いえ。私は、いつも夜更かしですから。
でも、オペラはこんな時間まであったんですか?」

「まさか!会場で知り合った人の所に寄り道してたら、こんなに遅くなったんだ。」

「そうだったの…あら、リュック。
それは…?」

「あぁ、これは…」

リュックは、肖像画にかけられた布を取り去った。



「まぁ…!」

クロワは、一言声をあげたきり、呆然とした表情で肖像画をみつめていた。



「どうだい?……すごく綺麗だろ?」

「え…ええ…これは、今日のオペラに出ていた方なの?」

「そうなんだ。
これは、今日のとは違う演目の衣装なんだけどな。
今日のもこの二人が主役だったんだ。」

「……まるで、夢の世界だわ…」

「あぁ…まさに、その通りだ。
バスティア家の地下も夢…
そして、あのステージも夢みたいだったよ。」

「クロワさん、あなたのおかげで本当に素晴らしい一日を過ごさせていただきました。
ありがとうございます。」

「いいえ、私は何も…
でも、マルタンさんに喜んでもらえて良かったです。
それで、この肖像画はどうなさったんですか?」

話すと長くなると思ったが、クロワは眠そうな顔もしていなかったため、私はジルベールとのやりとりのことを話して聞かせた。



「そうだったんですか。
それは良い方と知り合われましたね。」

「おっしゃる通りです。
それで、明日の朝、あのご夫妻にこの絵を届けようと思っているのですが、奥様の容態はいかがですか?」

「お話をされるくらいなら大丈夫ですよ。
オペラの話を聞かれたら、却ってお元気になられるかもしれませんね。」 

そんな会話を最後に、私は激しい睡魔に襲われ、横になった途端に眠り込んでしまった。







 「マルタン、まだ起きないのか?」

「……リュック、相変わらず早いな。
もう起きてたのか?」

 私はまだしっかりと開かない目をこすり、返事をした。



「もうって…お陽様はとっくに出てるぜ。
早く、あの絵を渡しに行こう!」

リュックに急かされるように起こされ、私はまだぼんやりとした頭で半ば無理矢理に身体を起こす。

顔を洗い、朝食を採ると、やっと頭の中がすっきりとしてきた。
クロワはもうすでにでかけたとのことだった。
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