318 / 641
040 : 海底神殿
2
しおりを挟む「その通りです。
心で感じたままを素直に表現するということは、実は簡単そうでいて簡単ではないのです。
真っ白な心を持った者にしか出来ないことです。
物事を目で見て頭で考えるのではなく、心を使って感じ取れる者にしか出来ないことなのですよ。」
ジルベールという男は本当に熱い魂を持った男だ。
それからも私達は音楽や芸術の話に花をさかせた。
というより、私達はジルベールの話を聞いていただけなのだが…
彼の話はどれも興味深い話だった。
「マルタン、そろそろ帰らないとクロワさんが心配するんじゃないか?」
「おぉ、もうこんな時間ですか。
早いもんですね。」
「ジルベールさん、今日はあなたのおかげで本当に楽しい思いをさせていただきました。」
「すっごく楽しかったよ。
ジルベールさん、ありがとう!」
「こちらこそ、本当にありがとうございました。
ぜひ、また遊びに来て下さいね。」
私達が席を立とうとした時、ジルベールは例の肖像画を私の目の前に差し出した。
私とリュックは困って顔を見合わせる。
「ジルベールさん、せっかくのご好意ですが…」
「そうだよなぁ…
いくらなんでもこんな貴重なものはなぁ…」
「まだ、そんな水臭いことをおっしゃってるんですか?」
「だって、俺達にはあんたに何もお返しが…」
「困りましたね…」
ジルベールはどうしても私達に肖像画を受け取らせたいらしい。
どうしても申し訳ないと思う気持ちは強いが、ここは、この老人の気持ちを汲んで素直に受け取った方が良いのだろうか?
そう考えた時だった。
「そうだ!」
私はジルベールの大きな声に目を見開いた。
「どうかされましたか?」
「思い出しました!
あなた方にお願いしたいことがあったことを…
ちょっと待ってて下さいね!」
そう言うと、ジルベールはどこかへ行ってしまった。
「お願いしたいことって、一体、何なんだろうな?」
「さぁな、それはわからんが…
どんなことであれ、とりあえずは引き受けようじゃないか。」
「どうしてなんだ?」
そんな話をしている所へ、慌てた様子でジルベールが戻ってきた。
彼が手にしていたのは、鈍く輝く銀のロザリオだった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる