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034 : 地下庭園
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私は、しばらくその男と話し、その後は広場の演芸を見て歩いた。
どれも玄人裸足の芸ばかりだ。
元々、バスティア家の人間はこういうものがとても好きで、気に入った音楽家や芸人をみつけてはパトロンのようなことをしていたらしい。
それでこの町に音楽家達が集まるようになったということらしい。
広場で演じてる者達はほとんどが無料だ。
ステージが終わった後に、空き缶や帽子の中に観客達は思い思いの小銭を入れる。
私はそんな金さえも持ち合わせていなかったので、こっそりとその場を離れた。
なんとも情けない気分だ…
「マルタン!」
名前を呼ばれ振り返るとリュックが手を振りながら走って来るのが見えた。
「こんな所にいたのか、探したぜ!」
「どうした?何かあったのか?」
「いや、もう薬が売りきれたから、それを伝えようと思ってな。」
「もう?!まだ昼過ぎじゃないか。」
「そうなんだ。俺も驚いたよ。
ここの医者はよほど藪医者なのか、薬を買いに来る者が途絶えなくて、あっという間に売りきれたよ。」
「そういえば、宿の客もそのようなことを言ってたな。」
「まぁ、そのおかげで薬の売れ行きが良かったのかもしれないな。
ところで、あんたもまだ昼飯食ってないんだろ?
クロワさんが待ってるから、早く帰ろうぜ!
俺ももう腹ぺこで死にそうだ…」
この青年が本当は私の何倍もの時を生きてきたとはとても思えない。
元気で明るく屈託のない笑顔は、どこにでもいる若い青年のものだ。
この男の心の中に、誰よりも深くて黒い闇が潜んでいるなんて、誰が考えるだろうか…
私にはいまだにわからない…
リュックが語ったあの話が真実なのか、ただの妄想なのか…
だが、出来る事なら、ありもしないただの妄想であってほしい…
私はそう願っていた。
宿に戻ると、主人がクロワは食堂にいるということを教えてくれた。
「では、私はこれで…」
私とリュックが食堂に入るのと入れ違いに初老の男が出ていった。
どうやらクロワと話していたようだ。
「マルタンさん!リュック!」
クロワがやけに弾んだ声をしていた。
「クロワさん、今のはもしかしたら昨夜の…」
「そうです!
それで、あの方から良いものをいただいたんですよ!」
クロワはそう言って、二枚の赤いチケットを差し出した。
「なんですか?これは…」
「オペラの入場券だそうです。」
どれも玄人裸足の芸ばかりだ。
元々、バスティア家の人間はこういうものがとても好きで、気に入った音楽家や芸人をみつけてはパトロンのようなことをしていたらしい。
それでこの町に音楽家達が集まるようになったということらしい。
広場で演じてる者達はほとんどが無料だ。
ステージが終わった後に、空き缶や帽子の中に観客達は思い思いの小銭を入れる。
私はそんな金さえも持ち合わせていなかったので、こっそりとその場を離れた。
なんとも情けない気分だ…
「マルタン!」
名前を呼ばれ振り返るとリュックが手を振りながら走って来るのが見えた。
「こんな所にいたのか、探したぜ!」
「どうした?何かあったのか?」
「いや、もう薬が売りきれたから、それを伝えようと思ってな。」
「もう?!まだ昼過ぎじゃないか。」
「そうなんだ。俺も驚いたよ。
ここの医者はよほど藪医者なのか、薬を買いに来る者が途絶えなくて、あっという間に売りきれたよ。」
「そういえば、宿の客もそのようなことを言ってたな。」
「まぁ、そのおかげで薬の売れ行きが良かったのかもしれないな。
ところで、あんたもまだ昼飯食ってないんだろ?
クロワさんが待ってるから、早く帰ろうぜ!
俺ももう腹ぺこで死にそうだ…」
この青年が本当は私の何倍もの時を生きてきたとはとても思えない。
元気で明るく屈託のない笑顔は、どこにでもいる若い青年のものだ。
この男の心の中に、誰よりも深くて黒い闇が潜んでいるなんて、誰が考えるだろうか…
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リュックが語ったあの話が真実なのか、ただの妄想なのか…
だが、出来る事なら、ありもしないただの妄想であってほしい…
私はそう願っていた。
宿に戻ると、主人がクロワは食堂にいるということを教えてくれた。
「では、私はこれで…」
私とリュックが食堂に入るのと入れ違いに初老の男が出ていった。
どうやらクロワと話していたようだ。
「マルタンさん!リュック!」
クロワがやけに弾んだ声をしていた。
「クロワさん、今のはもしかしたら昨夜の…」
「そうです!
それで、あの方から良いものをいただいたんですよ!」
クロワはそう言って、二枚の赤いチケットを差し出した。
「なんですか?これは…」
「オペラの入場券だそうです。」
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