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ルカ(聖夜月ルカ)

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031 : 呪縛

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何度も考えた。
あんなちびすけ共を怖がっていてどうなる?
緑の玉を飲むのをやめた所で、たいしたことなんて起こりゃしない。
俺はありもしない妄想にとり付かれてるだけなんだ。

来月は、もう行かない!
誰が、なんと言おうとあの森にはもう行くもんか!

そう思うのに、やはり、俺はあの森に行くことをやめられなかった。
前日までは心に固くそう決めたつもりでいたのに、当日になるとやはり森へ向かってしまう。

なぜって…どう考えても、奴らが俺に嘘を吐く必要なんて何もないように思えたから…



そして、気が付くと俺はもう三十五にもなっていた。

その頃から、俺の周りの奴らの態度がおかしくなってきていた。
多分、最初は誰かの軽い冗談だったんだと思う。
それがだんだんと話が膨らんでいったのだろう。
噂話なんて、たいがいそういうものだからな。

それは、とてもくだらない噂話だった。

俺が人魚の肉を食ったとか、不死鳥の血を飲んだとか、最高にイカれた話では俺が実は吸血鬼だというものもあった。

それというのも、俺の容姿が若い頃とまるで変わらないかららしい。
初めて会った奴には、俺はいつもたいてい二十歳くらいに見られ、本当の年を言うと驚かれたり信じてもらえないことさえあった。

自分自身でも薄々そのことは感じていたが、騒がれるまではそれほど気にしちゃいなかった。
年の取り方なんて人それぞれだ。
年をとっても若く見える者もいれば、逆に若くとも更けて見える者だってたくさんいる。

だが、あまりに皆が騒ぐから俺は髭を生やしてみることにした。
そんなことでどうにかなるとは思えなかったが、思った通り、元々そんなに髭の濃くない俺はただ薄汚くなっただけのような気がした。
ついでに髪も伸ばしてみた。
そんなことで少しでも落ち着いて見えるようになったかどうかはわからなかったが、雰囲気が変わったことだけは間違いなかった。

皆が飽きたこともあったのかもしれないが、ちょっとしたイメージチェンジのおかげでその馬鹿な噂は落ち着いたかのように思えた。



しかし、それも長くは続かなかった。
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