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027 : 月の船
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『いいえ、そのことならよく覚えています。
ですが…私は何もしていませんから。』
「嘘だ!
あなたは私をラザールに勝たせて下さったではありませんか!
私の願い通り、私をシャトランの覇者にして下さったではありませんか!」
『……あなたはまだ気付いていらっしゃらないのですね。
あなたが勝ったのは、あなたご自身のお力です。
私が手を出す前にあなたはあなた自身の力で勝利を手にしたのですよ。』
「ま、まさか!
私が、実力でラザールに勝ったと言われるのですか!」
『その通りです。
あなたは、この十年間どれほどの努力をされてきましたか?
家族のことさえ忘れるほどに、あなたはシャトランに打ちこんでこられた…
それが良い事かどうかは別として、その努力が実を結んだということなのですよ。』
「で…では、この先も家族は…」
『私はなにもしていないのですから、どこへも連れていく事などありません。』
「あぁ……」
月の女神の言葉に、私は心の底から安堵した…
自分が実力で勝ったことなど、もうどうでも良かった。
家族と離れなくてすむ…それだけ聞けば、もう他に望み等ありはしない…
「ありがとうございます。女神様…」
『しかし、今後あなたがまた同じようなことをすれば、私が連れて行かなくてもあなたのご家族はあなたの元を去っていかれるかもしれませんよ。』
「それはもうありません。
私は今度こそわかったのです。
この世で一番大切なものが何かを…」
『そうですか…」
月の女神は満足したように微笑み、眩い光と包まれると見えなくなった…
目が覚めると、私の横でセリスとアニーが静かな寝息を立てて眠っていた。
ただの夢…そう思う者もいるかもしれない…
だが、私にはそうは思えなかった。
昨日まで胸の中に渦巻いていた恐怖心が、跡形もなく消えていた。
月の女神は、セリス達を連れて行ったりはしない…
そもそも、月の女神が実際にいたのかどうか、月の船に乗ったのが現実だったのかどうかさえわからない…
しかし、この不思議な出来事がなければ、私はきっと今頃こんな安らかな時間を過ごせていないことだろう…
いや、この世にいたかどうかさえわからないのだ…
(ありがとう、月の女神よ…)
私は心の中でそう呟いた…
ですが…私は何もしていませんから。』
「嘘だ!
あなたは私をラザールに勝たせて下さったではありませんか!
私の願い通り、私をシャトランの覇者にして下さったではありませんか!」
『……あなたはまだ気付いていらっしゃらないのですね。
あなたが勝ったのは、あなたご自身のお力です。
私が手を出す前にあなたはあなた自身の力で勝利を手にしたのですよ。』
「ま、まさか!
私が、実力でラザールに勝ったと言われるのですか!」
『その通りです。
あなたは、この十年間どれほどの努力をされてきましたか?
家族のことさえ忘れるほどに、あなたはシャトランに打ちこんでこられた…
それが良い事かどうかは別として、その努力が実を結んだということなのですよ。』
「で…では、この先も家族は…」
『私はなにもしていないのですから、どこへも連れていく事などありません。』
「あぁ……」
月の女神の言葉に、私は心の底から安堵した…
自分が実力で勝ったことなど、もうどうでも良かった。
家族と離れなくてすむ…それだけ聞けば、もう他に望み等ありはしない…
「ありがとうございます。女神様…」
『しかし、今後あなたがまた同じようなことをすれば、私が連れて行かなくてもあなたのご家族はあなたの元を去っていかれるかもしれませんよ。』
「それはもうありません。
私は今度こそわかったのです。
この世で一番大切なものが何かを…」
『そうですか…」
月の女神は満足したように微笑み、眩い光と包まれると見えなくなった…
目が覚めると、私の横でセリスとアニーが静かな寝息を立てて眠っていた。
ただの夢…そう思う者もいるかもしれない…
だが、私にはそうは思えなかった。
昨日まで胸の中に渦巻いていた恐怖心が、跡形もなく消えていた。
月の女神は、セリス達を連れて行ったりはしない…
そもそも、月の女神が実際にいたのかどうか、月の船に乗ったのが現実だったのかどうかさえわからない…
しかし、この不思議な出来事がなければ、私はきっと今頃こんな安らかな時間を過ごせていないことだろう…
いや、この世にいたかどうかさえわからないのだ…
(ありがとう、月の女神よ…)
私は心の中でそう呟いた…
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