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ルカ(聖夜月ルカ)

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027 : 月の船

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もう何もほしくはない…
覇者の栄光もシャトランも、何もほしくはない。

しかし、皮肉なことにセリスとアニーの想いは違った。



「パパ、頑張って!
今年さえ勝てば覇者になれるのよ!」

「私、信じてるわ!
あなたのご両親も、毎日教会に行ってお祈りして下さってたのよ!
負けるわけないわ!」

「両親がそんなことを…?」

両親の家から教会へはかなりの道のりだ。
しかも、母親は数年前から足を悪くしている。



「あなた知らなかったの?」

「あぁ…まったく知らなかった。」

「お義母さんはあなたが覇者になることをどれほど楽しみにされていることか…」

「そうだよ。おばあちゃんはたまに町で会うと、いつも泣いてたよ。
パパを許してやってくれって…
今、パパはシャトランのことで他のことが見えなくなってるだけで、本当は私やママのことを愛してるんだって…」

「母さんがそんなことを…」



どうすれば良いというのだ?
両親や妻や子の期待には沿いたい。
だが、もし勝てば、また家族はいなくなるかもしれない。
それだけはいやだ。

私はどうすれば良いのだ?!



妻達に促され、私は会場に着いた。
着いたのは開始の一分前だった。
私が来ないのではないかと心配していた連中から大歓声が巻き起こった。

司会者の大袈裟な紹介にはそぐわない地味な私の登場にも観客は応えてくれた。
ラザールの紹介の時には、女性達の黄色い歓声が飛び交った。



同じだ…
私はこの光景を知っている…
寸分違わないこの光景をすでに体験している…

寒気がして来た。
これから起こることを考えると、震えが止まらなくなって来た…

私はどうすれば良い?
負ければ良いのか?
負ければ、セリス達はいなくならないのだろうか?
しかし、皆は私の優勝を期待している…
いや、やはり、今はそんなことを言っている時ではない…
負けるんだ…
この勝負には絶対に勝ってはいけない…

そう考えながら、私はまるで初心者が打つようなまずい手を打ち出した。
あっという間に決着が着くと思ったのだが、そうはいかなかった。

ラザールは深読みし過ぎたのだ。

私の打つ手に、何か意図するものがあると考えてしまったようだ。
そのせいで、彼のバランスは一気に崩れてしまった。
私とラザールは、素人目にもおかしな手ばかりを展開し続ける。 

 
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