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027 : 月の船
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どうやって帰ってきたのかもわからない。
私が家に戻った時には、空が白み始めていた。
家に着くなり私は酒の瓶に口を付け、次々と酒瓶を空にしていった。
(どうやって死のう…
やはり、あの湖にでも行くか…)
*
「マクシム!起きて!マクシム!」
私は身体を揺さぶられ、目が覚めた。
「ん……」
だんだんとはっきりしてくる意識の中で、目に飛込んで来たのは妻、セリスの顔だった。
その数歩後ろにいるのは、娘のアニー。
「セリス!アニー!!
お前達…戻ったのか?!」
「別に帰ってきたわけじゃないわ…
あなたが会場に現れないから、皆、心配してて、それで仕方なく呼びに来たのよ。」
セリスは私の言う「戻った」を私の意図とは違う解釈をしたようだ。
しかし、そんなことはどうでも良いことだ。
お前達が戻ってきてくれただけで十分だ…!!
「あなた、何をぼーっとしているの?
早く、会場へ向かわないと…!」
「あ、すまん…
……会場…?
何の会場なんだ?」
「あなた、飲みすぎて忘れてしまったの?!呆れたわね…
今日は、シャトランの決勝戦じゃないの」
「何を言ってる…
決勝戦はもう終わったじゃないか。
私が優勝し、覇者になった…」
「マクシム…あなた、そんな夢を見てたのね…
良い?よく聞いて。
決勝戦は今日…あなたはまだ勝っても負けてもいないわ…」
「まさか……」
妻の言葉に私は呆然としてしまった。
決勝戦は今日…?
では…あれはすべて夢だったというのか?
あんな鮮明な夢があるものなのか?
しかし、それなら、説明はつく…!
「そうだ!セリス!おやじやおふくろはどうしてる?無事か?」
「え…えぇ…さっき、お二人とも会場にみえてたわ。
一体、どうしたの?」
「……そうか…」
ほっとした。
心の底から安堵した。
そうだ…
きっと、私は悪い夢を見ていたんだ…
とても複雑でリアルな夢を…
しかし…
もしも、そうではなかったとしたら…
あの月の船が…月の女神との出来事が夢ではなかったとしたら…
今日、私が勝利すればセリスはいなくなるのか?
アニーも、そして両親も…
私が家に戻った時には、空が白み始めていた。
家に着くなり私は酒の瓶に口を付け、次々と酒瓶を空にしていった。
(どうやって死のう…
やはり、あの湖にでも行くか…)
*
「マクシム!起きて!マクシム!」
私は身体を揺さぶられ、目が覚めた。
「ん……」
だんだんとはっきりしてくる意識の中で、目に飛込んで来たのは妻、セリスの顔だった。
その数歩後ろにいるのは、娘のアニー。
「セリス!アニー!!
お前達…戻ったのか?!」
「別に帰ってきたわけじゃないわ…
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しかし、そんなことはどうでも良いことだ。
お前達が戻ってきてくれただけで十分だ…!!
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早く、会場へ向かわないと…!」
「あ、すまん…
……会場…?
何の会場なんだ?」
「あなた、飲みすぎて忘れてしまったの?!呆れたわね…
今日は、シャトランの決勝戦じゃないの」
「何を言ってる…
決勝戦はもう終わったじゃないか。
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「マクシム…あなた、そんな夢を見てたのね…
良い?よく聞いて。
決勝戦は今日…あなたはまだ勝っても負けてもいないわ…」
「まさか……」
妻の言葉に私は呆然としてしまった。
決勝戦は今日…?
では…あれはすべて夢だったというのか?
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しかし、それなら、説明はつく…!
「そうだ!セリス!おやじやおふくろはどうしてる?無事か?」
「え…えぇ…さっき、お二人とも会場にみえてたわ。
一体、どうしたの?」
「……そうか…」
ほっとした。
心の底から安堵した。
そうだ…
きっと、私は悪い夢を見ていたんだ…
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しかし…
もしも、そうではなかったとしたら…
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