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ルカ(聖夜月ルカ)

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027 : 月の船

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私は外へ飛び出した。
あたりはもう真っ暗で、出歩く人影もない…

私は泣いたりわめいたりしながら、町の中を駆け抜けていた。
今の私は、傍目にはまるで悪魔かなにかのようではないだろうか…
痩せて青白い顔をして、粗末なだらしない服装…
人を憎み、シャトランを憎み、そして自分自身を憎む、薄気味の悪い悪魔だ…



どこをどう走ったのか記憶もないまま…私は頬をなでる冷たい風で目が覚めた。

(………ここは?)

いつの間にかうとうとしていたらしい。



ゆっくりと半身を起こしあたりを見回す…

湖…

そうか、ここは裏山の湖なのか…

私の家からこの湖へはけっこうな距離がある。
私はいつの間にこんな所に来ていたのか…

頭がズキズキと痛み、なんだか気分も悪い…

私はまたその場に横になった。
仰向けになるとそこには丸くて大きな満月が浮かんでいた。



「月の女神か…」



無意識に先程の童話の本を思い出していたのかどうかはわからない。

雲一つない漆黒の空に浮かぶ美しい月を見ていると、そんなものがいても不思議はないように思えた。



(月の女神が本当にいるのなら…)



…ふとそんなことを考え、すぐに馬鹿馬鹿しくなって月から顔を背けた。



(そんなことを考えるなんて…私もおしまいだな…)



その時だった…

なんといえば良いのだろう…
そう…気配だ!

五感で感じているものではない何かを感じ振り向くと、月から船が降りてくるが見えた…



(馬鹿な…!!)

私は夢を見ているのか?
それとも、とうとう頭がおかしくなってしまったのか…?

淡い光に包まれた小船が音もなく、すっと…滑るように降りてくるのだ…

私はその様を息を飲んでみつめていた。
瞬きをすることさえ忘れてしまったように…

月の船は私の目の前に止まった。

それは、幻などではなく実態のあるもののように思えた。



 「私を…あの世へ連れていってくれるのか…?」

もちろん、船は何も答えない。
しかし、まるで「私のお乗りなさい」…そんな意思を伝えているように感じられた。
私は恐る恐る船に近づき乗り込んだ。

私が乗り込むと、船は再び地上を離れみるみるうちに天空へと吸い込まれていく…

眼下の湖が少しずつ小さくなっていき、そして丸い月が少しずつ大きくなっていく…

 
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