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025 : 牢獄の賢者
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「こっちだ…」
老人はおもむろに立ちあがり、私達を洞窟のさらに奥に案内した。
そこには鉄格子で仕切られた小部屋があった。
いや、部屋などと呼べる場所ではない。
むき出しの土の上には薄いむしろのようなものが敷かれているだけ。
キィィと軋んだ音を立てて鉄の格子戸が開く。
身をかがめ中へ入ると、片隅に粗末な木箱に乗せられた女神像と聖書があった。
「ここが、モーリスが三十年間を過ごした場所だ…」
「………こんな所で…」
「…あぁ、奴はほとんどここに座って祈っていたよ…
一年が過ぎた頃から、ここには鍵はかけなかった。
奴の刑期は終わったんだからな。
だが、奴は一向にここを出ようとはしなくてな…
モーリスはもう罪人ではなくなったから、食事もそこで中止になった。
そのことを言うときっと出ていくと思ってたんだが、そうではなかった。」
「モーリスさんはどうされたんですか?」
「奴はこのあたりの野草や木の実を採って食べていた。
だが、やはり食べ物以外にも必要なものは出てくる。
奴はそのうち鉱山で水晶の欠片を拾い集めるようになった。
それをわしが隣町に持っていき、必要なものと交換して来た。」
「あなたが…?」
「あぁ、奴といろいろ話してるうちに奴のことを知り、なんとなく放っとけなくなってしまってな…
わしも一年が過ぎたらここの管理人の仕事は終わるはずだったんだが、奴のおかげでこんな年まで働くことになってしまった。
いや、仕事じゃなく今じゃあただの道楽だけどな。」
「そうだったのですか…」
ケヴィンは、女神像に手を伸ばした。
手の平ほどの小さな像だ。
「これを……この女神像と聖書を私にいただけませんか?」
「その女神像を…?
……それはモーリスのもんだ。
わしには良いともだめだとも言えない。」
「私は………私は、神父になろうと思います。
そして、この地に教会を建てるつもりです…!」
私達は突然のケヴィンの言葉に驚き、一斉に彼の顔をみつめた。
老人はおもむろに立ちあがり、私達を洞窟のさらに奥に案内した。
そこには鉄格子で仕切られた小部屋があった。
いや、部屋などと呼べる場所ではない。
むき出しの土の上には薄いむしろのようなものが敷かれているだけ。
キィィと軋んだ音を立てて鉄の格子戸が開く。
身をかがめ中へ入ると、片隅に粗末な木箱に乗せられた女神像と聖書があった。
「ここが、モーリスが三十年間を過ごした場所だ…」
「………こんな所で…」
「…あぁ、奴はほとんどここに座って祈っていたよ…
一年が過ぎた頃から、ここには鍵はかけなかった。
奴の刑期は終わったんだからな。
だが、奴は一向にここを出ようとはしなくてな…
モーリスはもう罪人ではなくなったから、食事もそこで中止になった。
そのことを言うときっと出ていくと思ってたんだが、そうではなかった。」
「モーリスさんはどうされたんですか?」
「奴はこのあたりの野草や木の実を採って食べていた。
だが、やはり食べ物以外にも必要なものは出てくる。
奴はそのうち鉱山で水晶の欠片を拾い集めるようになった。
それをわしが隣町に持っていき、必要なものと交換して来た。」
「あなたが…?」
「あぁ、奴といろいろ話してるうちに奴のことを知り、なんとなく放っとけなくなってしまってな…
わしも一年が過ぎたらここの管理人の仕事は終わるはずだったんだが、奴のおかげでこんな年まで働くことになってしまった。
いや、仕事じゃなく今じゃあただの道楽だけどな。」
「そうだったのですか…」
ケヴィンは、女神像に手を伸ばした。
手の平ほどの小さな像だ。
「これを……この女神像と聖書を私にいただけませんか?」
「その女神像を…?
……それはモーリスのもんだ。
わしには良いともだめだとも言えない。」
「私は………私は、神父になろうと思います。
そして、この地に教会を建てるつもりです…!」
私達は突然のケヴィンの言葉に驚き、一斉に彼の顔をみつめた。
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