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ルカ(聖夜月ルカ)

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024 : 贖罪

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様々な想い出の残る迷宮の町を抜け、私達は山道を歩いていた。
 地図によれば、もう少し進めばその先に大きな町があるようだ。



 「今度の町でこそ、少し稼がないといけませんね!」

 「そうですね。
考えてみればイシドールと出会ってから、ほとんど薬を売る機会がありませんでしたね。
大きな町へはそれほど遠くはなさそうですよ。
着いたら早速商売ですね!」



クロワはイシドールと別れたことをきっとまだ寂しく感じているとは思うが、健気にも明るい笑顔を見せてくれた。

しばらく歩いた頃、私達は道の片隅にうずくまる男性をみつけた。



「大丈夫ですか!?」

「あ…あぁ…ありがとう。
大丈夫です。」

そう答えた男性の顔は、その言葉とは裏腹に血の気を失っており、脂汗が滲んでいた。



「どこが痛いのですか?」

「いえ、どこも…たいしたことはありませんから…そうぞ、放っておいて下さい。」

「そんなことはないでしょう。
酷い顔色だ。
この人は優れた薬師ですから、症状を話してみて下さい。」

「どうされたのです?
よくある痛みなのですか?」

「いえ…なんでもないんです…」

クロワの問いかけにも答えず立ち上がろうとした男の足元がぐらつき、男の身体が倒れそうになる所を私が支えた。



 「あぶない!
歩くのは無理そうですよ。
私があなたのお宅までお送りしましょう。」

「……ご迷惑をおかけして申し訳ありません。
うちはすぐ近くなんです。」

 男もついに抵抗するのを諦めたようだった。
 私は男性を背負い、彼の家まで運んだ。



「どなたか、ご家族はいらっしゃらないのですか?」

「…私は一人暮らしなのです。
後のことは自分でしますから…
本当にどうもありがとうございました。」

「何をおっしゃってるんです!
あなたは歩く事さえ出来ないほど弱ってらっしゃるじゃありませんか!
 私にお世話をさせて下さい。」

「どうか、放っておいて下さい…
もう帰って下さい!」

男は語気を荒げそう言い放つと、私達に背を向けた。 

 
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