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ルカ(聖夜月ルカ)

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019 : 人魚の恋

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「私、舟に乗るのは初めてなんです。
海のそばで育ったのにおかしいでしょう?」

「そうか…島はそんなに遠くはない。
すぐに着くから心配するな。」

「ダヴィッドさん、もし、体調になにかあったらすぐに言って下さいね。」

「ありがとうよ。もう大丈夫だ。
あんたのおかげで、ほら、もうこんなに元気になったよ。」

そう言って、ダヴィッドは力強く船を漕ぐ。

ほどなくして小舟は島に着いた。



「こっちだ…」

クロワはダヴィッドに着いていく。



「そこに、茂みがあるだろう?
洞窟はその奥だ。」

「ダヴィッドさん、私、一人で行ってきますから、あなたはここで待っていて下さい。」

「いや、俺も行こう。」

「それでは困ります。
私に万一のことがあった時は…イシドールを必ず無事に解放して下さい。
あなたが帰らなかったら、イシドールがどうなってしまうか…
だから、あなたはここで待っていて下さい。」

「……わかった…」

クロワは松明を持ち、洞窟の中に入っていった。
 湿った空気の中に、クロワは奇妙な生暖かさを感じた。

 中は広くはなく、すぐに奥の部屋に着いた。

 部屋の壁には窪みがあり、そこにはぼろぼろになった袋があった。



(…やっぱり…本当のことだったんだわ…!!)

クロワは両手を組み、一心に祈りを捧げた。
 熱い涙がクロワの頬を伝う…



(可哀想なニコラさんとオリヴィアさん…
辛かったですね…悔しかったですね…
あなた方のお気持ちはよくわかります。
……どうか、私を信じて下さい。)



「ニコラさん…オリヴィアさん…いきましょう…!」

クロワは意を決し、袋に手を伸ばした。

 恐怖のあまり、一瞬、固く目を閉じたが何事も起こらなかった。



「クロワ!!」

「ダヴィッドさん…やはりありました。」

クロワはダヴィッドに袋を見せた。



「可哀想にな…」

ダヴィッドもそれを見て、一筋の涙を流す。



「あと少しで幸せになれる所だったのにな…」

ぼろぼろになった袋を大切そうに胸に抱き、二人は小舟で沖へ向かった。



「やっと着きましたよ…」

二人は袋と摘んで来た野の花を海にそっと沈めた…



「オリヴィアさん、ニコラさん…どうか…お幸せになって下さい…!」

二人は悲しい運命を辿ったオリヴィアとニコラに鎮魂の祈りを捧げる…



 ……ピチャン



「あ……」

「俺も聞いたぞ!」

二人が聞いたもの…それは、小さな水音だった。



 「お二人は、喜んで下さったでしょうか?」

「あぁ、きっとな。
二人はやっと海に帰れて喜んでると思う…」

クロワとダヴィッドは青く穏やかな海をみつめた。
 心から、オリヴィアとニコラの幸せを願って…
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