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ルカ(聖夜月ルカ)

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020 : 妖精のお茶会

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「ここに書いてあるではないか。
いや、『書く』というのとは少し違うがな。
人魚の気持ちや言いたかったことがこの貝にこめられているんじゃ。」

「そんなことが…」



俺にはただの貝殻にしか見えなかったものに、そんな仕掛けがあったとは…
やっぱり、人魚ってのは人間とはずいぶん違う不思議な生き物なんだなと俺は思った。



「人魚は本気でおまえさんに惚れとるようじゃの… 
しかし、人間と人魚は違いすぎる…
決して結ばれることはないのじゃ。
結ばれるための方法はただ一つ。
どちらかが人間になるか、人魚になるか、ただそれだけじゃ。
おまえさんは、人魚になるつもりらしいが本当に良いのか?
海なんて退屈な所じゃぞ。
しかも、天敵もけっこうおる危険な所でもある。
サメや嵐や人間や…決して楽しいだけの所ではないぞ。
もしも、やっぱり人間に戻りたいなんて思っても、もう戻れんのじゃぞ!
……それでも良いのか?」

「あぁ、それでも俺は構わない!
オリヴィアと一緒にいられるのなら、それだけで良い。」

「では、もしそのオリヴィアがサメにでも襲われて死んでしまったらどうするんじゃ?」

「…それでも、俺は海で生きていくさ。
オリヴィアのためなら、俺は…人魚になることに一切の後悔はないっ!」

 俺がそう言うと、爺さんはにっこりと微笑んだ。



「……そうか。
おまえさんの気持ちはよくわかった。
おまえさんの言葉に偽りがないこともわかっておる。
……では、わしは今からお前さんを人魚に変える薬を作ってくるから、待っておれ」



爺さんは妖精達に何かを伝えたようだった。
妖精達はにわかにせわしなく動き回り始めた。

俺は、木陰に座り、オリヴィアのことを考えていた。



 人魚か…
この俺が人魚になるのか…

両親がこの世にいなくて良かったと思った。
 両親が生きていたら、少しは俺の気持ちも揺らいでたかもしれない。

気掛かりがあるとすれば、隣に住むアランのこと。

アランも親がなく、俺はいつしかあいつのことを弟のように感じていた。
だが、あいつなら俺がいなくなってもしっかり生きていってくれるだろう…

あいつにもオリヴィアのことは言ってないが、俺が陸を離れる時に本当のことを言おう…
アランの奴…驚くだろうな…
やはり、言わない方が良いんだろうか…? 
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