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ルカ(聖夜月ルカ)

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016 : 迷宮都市

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「イシドール、ここでクロワさんと待っていてくれないか。
私はこのあたりをもう少し見てこよう。」

「わかった。
迷うなよ、マルタンさん!」

私は、広場を突っきり先の道を進んでいった。
しばらく進むと高い階層になったので、そこから町の様子をうかがった。

宿屋か教会の目印のようなものがみつからないかと目を凝らしたが、それらしきものは何もみつからなかった。



(…だめか…)

その時、私の後ろを通る人影に気付き、声をかけた。



「あ…あの、すみません…」

男は私の方を見た。



「あんた、よそ者だな。
道に迷ったのか?」

「そうなんです。
町の外に出ようにも、その道がわからなくて…」

「そうだろうな。
ここにはしばらく住まないことには町の構造は覚えきれない。
運の悪い奴は行き止まりの場所で死んでたりするんだ。」

「そんなことが…!」

「それだけじゃない。
ここは理由ありの者達が住む町だが、その中にはおっかない奴らもたくさんいる。
金品を巻き上げられたり女だったら捕まって売られたりすることもあるんだぜ。
何事もなかったなんて、あんたは運が良いぜ。」

 「そんなに危険な町だったんですか…」

 思ってもみなかったことを聞かされ、私は愕然とした。



 「そうさ、じゃ、俺がこの町の信頼できる宿屋に案内するぜ。
それとも町の入り口の方が良いかい?」

「ありがとうございます。
では、早めにこの町を離れることにします。」

「そうだな、その方が良いだろう。
町を迂回して隣の町に行った方が良いな。」

「本当にありがとうございました。
あなたのおかげで助かりました。」

「良いってことよ。
さ、こっちだ。」

「あ、向こうの広場に一緒に旅をしている者を待たせてあるんです。」

「あんな所に?!
そいつは男か、それとも女なのか?」

「両方です。」

「とにかく急ごう!」

私が広場に戻った時、そこにはクロワとイシドールの姿はなかった。



 「……遅かったか…」

「遅かった?
一体、どういうことです?」

「ここは、迷いこんだ旅の者がよくカモられる場所なんだ。
そのために作られた罠みたいな場所だな。
 道に迷い、疲れた旅人が休んでる所を狙われるってわけなんだ。」

「でも、二人ともいないというのは…」

「……女は売られる…男は使い道がなけりゃ、その時は……」

 
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