お題小説

ルカ(聖夜月ルカ)

文字の大きさ
上 下
156 / 641
012 : 竜殺し

しおりを挟む




 (イシドールが町の者からあんな仕打ちを受けているのは、こんなくだらない伝説のためだったのか…!)

私は絶望的な気持ちと町の者達に対する憤りを感じていた。

可哀想なイシドール…

運ばれてきた魚料理には手をつけることなく、私は帰路に着いた。



 「おかえりなさい…」

あたりが暗くなり始めた頃、私はイシドールの小屋に着いた。

なんとなく二人の様子がおかしい…



「遅くなってすまなかったな。
イシドール、腹が減っただろう?
すぐに準備するからな。」

私の言葉にイシドールは黙って頷いただけだった。

準備とはいっても買ってきたものを並べるだけだ。
しかし、イシドールは缶詰も初めてだということで、とても興奮した様子で食べていた。



次の日、私はまた町まで買い物に出掛けた。
今度は鍋や食器、そしてちょっとした調味料を買いに行ったのだ。

その晩は、干し肉を炒めて食べさせたのだが、イシドールはこんなにうまいものは初めてだとたいそう喜んでいた。

若いということもあるのか、熱も下がりイシドールはすぐに元気を取り戻した。



次の日、私は彼を川に連れていき水浴びをさせた。

彼の背中に刻まれた痣に、私は一瞬息を飲んだ。

「……この痣のこと…クロワさんに聞いてなかったのか?」

「……いや、なにも…」

「そうか……実は……」

イシドールは、自分の事情を語ってくれた。



「クロワさんから聞いてると思ってたぜ。」

「彼女はあまりそういうことを言う人間ではないからな。」

「クロワさんも、俺と似たような境遇だったって言ってたけど、どういうことなんだ?」

「私も詳しいことは何も知らないんだ。
だが、君と似たような境遇だったことは間違いない。」

 私の脳裏には、クロワの住む村でのことが呼び起されていた。



「あんたも知らないのか?
あんたら…恋人同士じゃないのか?」

「いや、私と彼女はそういう仲ではない。
ただ、縁があって一緒に旅をしてるだけだ。」

「いい年の男と女が一緒に旅をしていて、よく間違いが起こらないもんだな。」

「彼女は私の命の恩人でもあるからな。
そういう対象としては、なかなか見られないんだ。」

「命の恩人?」

「あぁ…実は私は瀕死の所を彼女に助けられたんだ…
おかげでこんなに元気になれた。
ただ…記憶は戻らないままなんだがな。」

 
しおりを挟む

処理中です...