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007 : バラの村
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「クロワさん……
……ならいいわ。
だけど、あなた、そんなことを言う程真剣に探したの?
まだ一ヶ月にもならないのに、もう音をあげるの?
谷底も確認してないんでしょう?
あなたは彼を探すのに疲れて、そんなわけのわからないもののせいにしようとしてるだけじゃないの?
世の中には、何十年も行方不明の肉親を探してる人がいるわ、何十年も治る見込みのない苦しい病と闘い続けてる人もいる。
だけど、その人達はそんなことを言って逃げたりはしないわ。
私は神に祝福されない人間だから…なんて言って諦めたりはしてないわよ!」
シスターの言葉に、クロワは唇を噛み締め、部屋を飛び出した。
修道院の裏庭にしゃがみこみ、クロワはひそかに涙を流した。
(シスターは、私の苦しみなんてわかってないんだわ…
…だけど…)
クロワにもわかっていた。
自分に強さが足りないことも…
…いつも人に脅え、目立たないように隠れていた。
でも、心の底ではそんな自分がいやでたまらなかった。
そんな時、マルタンに出会い、あの場所を離れることで生まれ変われそうな気がした。
実際、少し離れただけでクロワのことを馬鹿にする者もいじめる者も、クロワのことを知る者さえがいなくなった。
そのおかげで人に脅えずに済んだ。
それがわかると、クロワは自分でも驚く位、自由に動けるようになっていることに気が付いた。
今まで自分をがんじがからめにしていた鎖から、一気に解き放たれたような爽快感…
今の自分がきっと本来の自分だったのだと思える程だった。
……でも、違った。
マルタンがいなくなってからは、感情が制御出来ない。
すぐに駄目だと思ってしまう…
くじけてしまう…
人に脅えて暮らしていたあの頃の大嫌いな自分に…
また身体中を重い鎖で動けなくされてしまうような想いに引き戻されそうになってしまう…
(……乗り越えなくては…
今、ここでくじけたら、私はまたあの頃と同じになってしまう…
あの大嫌いな私に戻ってしまう……あ…)
クロワの前に不意に白いハンカチが差し出された。
「……シスター……」
「あなた、いつまで泣いてるつもり?
そんなに泣いてちゃ明日は瞼が開かなくなるわよ。」
クロワは頷き、ハンカチを受け取った。
「なんでも頑張りすぎると長持ちしないのよ。
辛くなったら休んで、まわりの人に助けを求めなさい。
そして…一番大切なことは、諦めないこと…」
「…シスター…」
……ならいいわ。
だけど、あなた、そんなことを言う程真剣に探したの?
まだ一ヶ月にもならないのに、もう音をあげるの?
谷底も確認してないんでしょう?
あなたは彼を探すのに疲れて、そんなわけのわからないもののせいにしようとしてるだけじゃないの?
世の中には、何十年も行方不明の肉親を探してる人がいるわ、何十年も治る見込みのない苦しい病と闘い続けてる人もいる。
だけど、その人達はそんなことを言って逃げたりはしないわ。
私は神に祝福されない人間だから…なんて言って諦めたりはしてないわよ!」
シスターの言葉に、クロワは唇を噛み締め、部屋を飛び出した。
修道院の裏庭にしゃがみこみ、クロワはひそかに涙を流した。
(シスターは、私の苦しみなんてわかってないんだわ…
…だけど…)
クロワにもわかっていた。
自分に強さが足りないことも…
…いつも人に脅え、目立たないように隠れていた。
でも、心の底ではそんな自分がいやでたまらなかった。
そんな時、マルタンに出会い、あの場所を離れることで生まれ変われそうな気がした。
実際、少し離れただけでクロワのことを馬鹿にする者もいじめる者も、クロワのことを知る者さえがいなくなった。
そのおかげで人に脅えずに済んだ。
それがわかると、クロワは自分でも驚く位、自由に動けるようになっていることに気が付いた。
今まで自分をがんじがからめにしていた鎖から、一気に解き放たれたような爽快感…
今の自分がきっと本来の自分だったのだと思える程だった。
……でも、違った。
マルタンがいなくなってからは、感情が制御出来ない。
すぐに駄目だと思ってしまう…
くじけてしまう…
人に脅えて暮らしていたあの頃の大嫌いな自分に…
また身体中を重い鎖で動けなくされてしまうような想いに引き戻されそうになってしまう…
(……乗り越えなくては…
今、ここでくじけたら、私はまたあの頃と同じになってしまう…
あの大嫌いな私に戻ってしまう……あ…)
クロワの前に不意に白いハンカチが差し出された。
「……シスター……」
「あなた、いつまで泣いてるつもり?
そんなに泣いてちゃ明日は瞼が開かなくなるわよ。」
クロワは頷き、ハンカチを受け取った。
「なんでも頑張りすぎると長持ちしないのよ。
辛くなったら休んで、まわりの人に助けを求めなさい。
そして…一番大切なことは、諦めないこと…」
「…シスター…」
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