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ルカ(聖夜月ルカ)

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006 : 黄昏の館

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もうオーバンの言うこと等、気にしないことにした。

彼女は私を愛してくれている…
それは疑いのない事実だ…
それ以外は、どうでも良いことなのだから…



それから、数日経った日のことだった。

「こりゃあまずいな!
やられちまってる…」

薔薇園の手入れをしている時に、オーバンが声をあげた。

オーバンの所へ行ってみると、彼の目の前の数本の赤い薔薇の葉が茶色くなって枯れていた。



「でも、少しで済んで良かったな。」

「わかっちゃいないな。
この薔薇園は彼女の宝物だ。
一本枯れただけでもえらいことになっちまう!」

「そうなのか…では、黙っておくか?」

「バレないわけはないだろう。
それより、他の木がやられてないか、調べてみよう。」

悪いことに、枯れた木の他にも、同じ病気にやられていると思われる木がさらに数本みつかった。



「あんたがここを手伝ってくれるようになるまでの間、しばらく手入れ出来なかったのがまずかったかなぁ…
今夜はきっと怒られるぞ…覚悟しとかなきゃな。」



オーバンの言った通りだった。
 女王は烈火のごとく怒り狂った。

今夜あたり、また彼女と愛し合えるのではないかと期待していた私の思惑は、もろくも崩れ去った。

しばらくして、やっと女王の怒りがおさまると、私とオーバンは薔薇の若木を買いに行くことを仰せ付かった。

出来るだけ目立たないように行動すること、もちろん、女王の使用人であることも洩らさぬように注意をされた。



次の朝、出かける時に大きな水筒をいくつも持たされた。
私たちがふだんから飲んでいる滋養薬だ。
私達の健康面を案じ、彼女がいつも作ってくれているものだ。
旅に出ても疲れが出ないようにとの気遣いから、わざわざ持たせてくれたものだった。

薔薇の若木は歩いて十日前後かかる村まで行かねばならないらしい。
そんな遠くまで行かずとも手に入ると思うのだが、どうしてもそこのものではないといけないらしいのだ。

そんなに長い間、彼女を一人にしておくのはたまらなく心配で寂しかったが、仕方がない。 
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