お題小説

006 ： 黄昏の館

１９

「今夜はここに泊まっていきなよ。
この町には宿屋なんてシャレたもんはないからね。
狭いけど、野宿よりはマシだろ。
なぁに、ミシェルの言うことなんて気にすることなんてないさ。
マルタンさんはきっとどこかで生きてるさ！
まだ誰かが彼の遺体をみつけたわけじゃないんだから。
希望っていうのはさ、その人が『もう、ダメだ！』って、諦めた時になくなっちまうもんなんだよ。
 諦める方が楽だから、皆、なんでも諦めたがるもんなんだよ。
でも、あんたなら頑張れる！
 辛いことかもしれないけど、あんたが諦めない限り、マルタンさんがみつかる希望はなくならないんだ。
わかるかい？」

「……カーラさん……」

カーラに会うまでは、心のどこかでさげすんでいた。
 卑しい職業のだらしない女なんだと思っていたことを、クロワは悔いた。

（…ごめんなさい、カーラさん…）



「今夜は何も考えず、ゆっくり休みな。
あんたが気の済むまでここにいて良いんだからね。」

「…ありがとう、カーラさん。
私、諦めません！
あなたの言葉で勇気がわいてきました。
これからもマルタンさんを探します！
必ず、マルタンさんをみつけだします！」



クロワは次の日、カーラの家を発った。
マルタンを探す手掛りは何もないが、こういう場合はやはり原点に戻るのが一番だと考えたのだ。
なにか見落としてることがあるかもしれない…と。



（カーラさんの言う通りよ！
希望が絶望に変わるのは、諦めた時…
私が諦めない限り、希望はなくならないのよ！）



クロワは、自分に言い聞かせるように心の中でそう呟いた。