お題小説

ルカ(聖夜月ルカ)

文字の大きさ
上 下
53 / 641
006 : 黄昏の館

14

しおりを挟む
アマンダがその話を聞きつけ、宿まで行って話を聞いてきた。

 女の友人に話を聞いた所、その赤毛の男とマルタンの特徴は酷似していた。
瞳は確かブラウンだったといっていたそうだが、前髪が長いせいでもう片方の瞳が見えなかったのかもしれない。
 女は、赤毛の男と故郷に行って一緒に暮らすと言って、店を辞めたのだという。



「その故郷はどこなんですか!」

「ここから三つ程先の小さな町らしいよ。
……まさか、あんた、そこに行くつもりなのかい?」

「……ええ」

 「よしな。
そんな男を追い掛けたって、あんたが悲しい想いをするだけさ。
良かったら、ここで一緒に暮らさないかい?」

「いえ……大丈夫です。
私達は恋人同士だったわけではないのです。
マルタンさんに好きな方が出来たならそれでも良いんです。
……ただ、今までのお礼とお別れを言いたいだけなんです。
それを伝えたら、またここへ帰ってきます…」

「……そうかい。
無理するんじゃないよ。」

 「ええ…ありがとうございます。アマンダさん。」

 「町までの地図を描いてあげるよ。」

 「ええ…」



(……地図…?)

アマンダの言葉を聞いて、地図を持っていたことを思い出し、クロワはテーブルに地図を広げた。



「なんだ、立派な地図を持ってんじゃないか。」

「ここから三つ目というと…この町ですね?」

「そうだよ。
なだらかな道だから、行くのはそう大変じゃないけど、一週間はみといた方が良いね。
ま、途中にも宿はあるし、ここみたいに柄の悪い町はないから、困るこたぁないと思うけどね。」

「そうなんですか。
アマンダさんには本当にいろいろとお世話になりました。」

「何を言ってるのさ、世話になったのはこっちの方さ。
いいかい……辛いことがあったら、すぐに私の所に帰って来るんだよ。
わかったね!」

「ええ…ありがとう、アマンダさん…」



マルタンの手掛りがやっとみつかったのは良かったが、クロワの心は沈んでいた。

正直な気持ちを言えば、聞きたくはなかった。

 今までマルタンに抱いていたイメージが一瞬にして崩れ去ったような…クロワはそんな寂しい気持ちを感じていた。

でも、それは、自分が勝手に造り上げていた幻想なのだ。
マルタンが悪いわけではない。

 (……そんなこと、わかってる…)




……次の朝、クロワはひっそりと町を発った。
しおりを挟む

処理中です...