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ルカ(聖夜月ルカ)

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006 : 黄昏の館

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……ソレイユの館を出てから、一体何時間位歩き続けて来たことだろう…

あたりはもう暗くなり始めており、クロワの体力も限界近くまで来ていた。

 通り過ぎて来た道程には、崖などの危険な場所がいくつかあった。

その度に、クロワは、大きな声でマルタンの名を呼んだが、返事はなかった。
 返事がないのは彼が無事だということだと、クロワは自分に言い聞かせた。

空には、うっすらと月の姿が浮かび始めていた。



 (……隣町がこんなに遠いなんて…)

暗くなって来るにつれ、クロワの心細さは増した。
まさか、獰猛な獣等はいないとは思うが、こんな暗い山の中に一人ぼっちでいるのかと考えると、クロワの気持ちはどんどん沈みこんで行く…

涙が出てきそうになるのをぐっと堪え、クロワは空を仰いで歩き続ける。

 一つ…また一つと瞬く星が増えていく。
それは、空が暗くなったことをも意味するのだが、まるで月と星が自分に歩調を合わせてついてきてくれてるようで、クロワは奇妙な安心感のようなものを感じていた。 

(あ……)


気が付くと、クロワはようやく開けた場所に出てきていた。

 疲れ果てた身体を思いきり伸ばして横になる。

(……ありがとう…
あなた達のおかげよ…)

空の月と星に向かって、心の中でそうつぶやくと、なぜだか一滴の涙がクロワの頬を伝った。

クロワはランプに火を灯し、バッグの中からパンとりんごを取り出し、口に運んだ。
それは、今朝早くでかけようとするクロワにシスターが持たせてくれたものだった。

 疲労感が大きすぎて、いつの間にか消え失せていた食欲が、パンとりんごのおかげで呼びさまされた。
クロワはさらにチーズの塊を取りだし、それをぺろりとたいらげた。

空腹が満たされると、くじけそうになっていたクロワに体力と気力がよみがえってきた。



 (もう、山は越えたのだから、町は遠くないはずよ!)

元気を取り戻しただけではなく、道が急になだらかで木が少なくなってきたことで歩くのがとても楽になっていた。

しばらく行くと、遠くに華やかな町の灯りがチラチラと揺らめくのが目に映った。



 (あった!!
ついに、町をみつけたわ!)

クロワの足取りが自然と速くなる。
さっきまであんなに疲れていたのが嘘のように…

 
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