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ルカ(聖夜月ルカ)

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006 : 黄昏の館

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次の朝、クロワは、シスターから聞いた話を頼りに黄昏の館を訪ねた。

奥深い所ではあったが、修道院から一本道だったおかげで、迷うことはなかった。

神に近い存在とされるソレイユには、決まった者しか会えないとされていた。
ましてや旅の者等に会ってくれるかどうかわからない…と、シスターは言ったが、それでもクロワの決意は揺らがなかった。



(一生懸命お願いしてみたら、きっと会って下さるに違いないわ!
もしも、駄目だったら…それは、また、その時に考えれば良いこと。)

 高く大きな鉄の扉の奥に、蔦の絡まった屋敷があるのがクロワの目に映った。



(勝手に入って行っても大丈夫かしら?)

 幸いなことに、庭で下働きをしていた男がクロワに気付いた。
クロワは自分の名を告げ、ソレイユに会いたい旨を伝えた。

 男は屋敷の中へ入り、しばらくすると、スカーフをかぶった女が出てきた。



「ソレイユ様ですか?」

「そうです。
…あなたは、クロワさん…でしたね…?
…私になにか…?」

「はい。
実は……」

 女の顔の下半分はスカーフに覆われてはいるが、大きく威圧感のある瞳を見るだけでも、相当な美人なのだろうとクロワは想像した。



(…この方が、夏至祭の女王…)

クロワはソレイユにマルタンのことを尋ねた。

ソレイユはぼんやりと遠くを見るような目をして、ゆっくりと話し始めた。



「……あぁ…あの方ですね…」

「マルタンさんはやっぱりここへ来られたんですね!」

「えぇ…
一晩泊めてほしいと来られました。
しかし、仮にも私は夏至祭の女王と呼ばれる者…
見ず知らずの旅人を屋敷に泊めるわけにはまいりません。
お気の毒だとは思いましたが、お断り致しました…」

「…でも、あの日以来、マルタンさんがいなくなってしまったのです。」

 「町の方へ戻られたのではありませんか?」

 「それが、町の人にはくまなく聞いてまわったのですが、マルタンさんを見掛けた人が一人もいないのです。
それは、マルタンさんが町ではなく、こちらへ来たということではないかと思ってこちらへ伺ったのです。」

「……そういえば…
あの方は、この先のことをお尋ねでした。
 少し道は悪いですが、この先を進めば隣町へ着くことをお教えしましたわ。
あの町には……」

そう言って、ソレイユは意味ありげに瞳を細めた。



「何かあるのですか?」

 「男性がお愉しみになれる場所がたくさんありますから、その方もそちらへ行かれているのではありませんか?」 

 
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