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005 : 夏至祭の女王
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その晩は、ジャンも母親もほとんど話をすることはなく、早い時間からベッドにもぐりこんでいた。
私達も彼等と顔を合わせるのが辛かったのでその方が都合が良かったが、神経が高ぶっていたせいかなかなか寝付くことも出来ず、時間潰しにクロワに薬草のことを教わっていた。
「これが胃痛に効く薬草で、こっちが…あれ??」
「そっくりでしょう?
でも、ほら、こっちの茎のあたりには筋が入ってて…」
クロワは丁寧に教えてくれるのだが、薄暗い部屋の中で似たような薬草の区別はつきにくい。
「やっぱりあなたはすごい人だ。
私にはどちらも同じに見えてしまいますよ。」
「慣れですよ。
おばあさんにみっちり教えてもらったんですが、今までには何度も間違って飲んで苦しい思いをしたり、時にはそのせいで死にかけたことさえあるんですよ。」
「そんなことが!」
「ええ、ですから、私、少し位の毒ではやられない身体なんです。
知らないうちに毒への免疫が出来てるんです。
人間の身体って、たいしたもんですね。」
クロワはそう言って笑った。
本当に彼女は屈託のない笑みを見せてくれる。
彼女のおかげで、沈んだ気持ちが少し楽になったような気がした。
*
「おはようございます。」
顔を洗いに小屋を出た所で、私はメラニーに声をかけられた。
「おはようございます。
起きていて大丈夫なんですか?」
「ええ。
ジャンがこの枝をみつけてきてくれまして…」
そう言って、彼女は杖代わりの枝を視線で示した。
ジャンは母親の傍らで嬉しそうに微笑んでいる。
「……昨日は取り乱してしまってすみませんでした。
でも、もう大丈夫です。
昨日、思いっきり泣いたおかげでふっきれました。
アンリはこの世からはいなくなりましたが、私の心の中では今も元気に生きているのです。
私達、親子の絆がなくなったわけでもなんでもないんです。
それに、ジャンが…
ジャンが、アンリの代わりに私を守ってくれるって言ってくれたんです…
今まで、なんでもアンリ任せだったこの子が…」
「…それは良かったですね…」
「…だから、もう泣きません。
この子と二人で一生懸命生きていきます。
きっと、アンリもそれを望んでると思いますから…」
彼女の瞳は潤んではいたが、その涙をこぼすことはなく、その顔には清々しい笑みをたたえていた。
私達も彼等と顔を合わせるのが辛かったのでその方が都合が良かったが、神経が高ぶっていたせいかなかなか寝付くことも出来ず、時間潰しにクロワに薬草のことを教わっていた。
「これが胃痛に効く薬草で、こっちが…あれ??」
「そっくりでしょう?
でも、ほら、こっちの茎のあたりには筋が入ってて…」
クロワは丁寧に教えてくれるのだが、薄暗い部屋の中で似たような薬草の区別はつきにくい。
「やっぱりあなたはすごい人だ。
私にはどちらも同じに見えてしまいますよ。」
「慣れですよ。
おばあさんにみっちり教えてもらったんですが、今までには何度も間違って飲んで苦しい思いをしたり、時にはそのせいで死にかけたことさえあるんですよ。」
「そんなことが!」
「ええ、ですから、私、少し位の毒ではやられない身体なんです。
知らないうちに毒への免疫が出来てるんです。
人間の身体って、たいしたもんですね。」
クロワはそう言って笑った。
本当に彼女は屈託のない笑みを見せてくれる。
彼女のおかげで、沈んだ気持ちが少し楽になったような気がした。
*
「おはようございます。」
顔を洗いに小屋を出た所で、私はメラニーに声をかけられた。
「おはようございます。
起きていて大丈夫なんですか?」
「ええ。
ジャンがこの枝をみつけてきてくれまして…」
そう言って、彼女は杖代わりの枝を視線で示した。
ジャンは母親の傍らで嬉しそうに微笑んでいる。
「……昨日は取り乱してしまってすみませんでした。
でも、もう大丈夫です。
昨日、思いっきり泣いたおかげでふっきれました。
アンリはこの世からはいなくなりましたが、私の心の中では今も元気に生きているのです。
私達、親子の絆がなくなったわけでもなんでもないんです。
それに、ジャンが…
ジャンが、アンリの代わりに私を守ってくれるって言ってくれたんです…
今まで、なんでもアンリ任せだったこの子が…」
「…それは良かったですね…」
「…だから、もう泣きません。
この子と二人で一生懸命生きていきます。
きっと、アンリもそれを望んでると思いますから…」
彼女の瞳は潤んではいたが、その涙をこぼすことはなく、その顔には清々しい笑みをたたえていた。
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