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005 : 夏至祭の女王
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しおりを挟む昨夜の雨は、朝の訪れと共にあがっていた。
ジャンの母親はまだ眠っていた。
だが、前日までとは違い、呼吸がとても楽になっているのがわかった。
しばらくすると、ジャンが起きてきた。
私はジャンと沢に行く途中に、昨夜のことを話して聞かせた。
「本当に?
本当に、母さんの目が覚めたの?」
「あぁ、本当だ。
母さんはもう大丈夫だ!
これからはきっとどんどん良くなっていくぞ…!」
「……うんっ!」
沢で顔を洗うと、私はジャンにあることを言いつけた。
それは、もちろん、夜光珠の杯のことだ。
「夜光珠の杯のことを知ったら、君の母さんはどんな風に思うだろう?
自分のために子供達が盗みをし、そしてお兄ちゃんが死んでしまったことを知ったら、母さんは自分を責め続けると思う…
苦しみ続けると思う…
だから、言ってはいけない。
秘密にするのは苦しいことだと思うが、ジャン…君は男だ…
母さんのために約束出来るな?!」
「………うんっ!
僕、絶対に言わないよ!
母さんを苦しめたくないから、絶対に言わないよ!」
「よしっ!ジャンは本当に良い子だ…
……いつの日か、君が大人になって、言った方が良いと思う日が来ればその時に考えて言うのも良いだろう…
だけど、今は駄目だ…
それと、これからは、君がお兄ちゃんに代わって母さんを守っていかないといけないんだ。」
「……僕が……」
「…そうだ…
だから、強くなるんだ…!
強い男になるんだぞ…!」
「……うん…!
マルタンさん、僕、強くなるよ!
強くなって、母さんを守っていくよ!」
私はジャンを抱き締めていた。
……彼の華奢で小さな身体を…
まだこんなにも幼い子に、私はなんと酷なことを言っているのだろう…
しかし、私達がずっとここにいるわけにもいかない…
この母子はお互い支えあって、二人で生きていくしかないのだ。
強くなれ…
はたして私は他人にそんなことが言えるほど、強い人間なのだろうか?
そんな偉そうなことが言えるほど、立派な人間なのだろうか?
自分の過去を忘れているから、そんなことが言えたのかもしれない…
私は、本当はそんなことを言えるような人間ではないのかもしれない…
私は、一体、どんな人生を歩んでいたのだろう…?
……私は、誰なんだ…?
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