お題小説

005 ： 夏至祭の女王

４

「大丈夫だ…心配するな。
彼女がきっと助けてくれるさ。」

心の中では私は反対のことを考えていた。
気の毒だが、あの分ではあの母親はきっと助からないだろう…と。

だが、私の口から出た言葉はそれとは正反対のことだった。
すぐに消え失せてしまうような希望を持たせるのは、真実を伝えるよりも残酷なこと…

そうわかっていても、一度発してしまった言葉はもう取り消すことは出来ない…

私はその罪悪感からかジャンの小さな身体を抱き締めていた。

 私の唐突な行為にジャンは一瞬驚いたように身を固くしたが、やがて私に腕を伸ばし抱きついてすすり泣き始めた。



可哀想に…
まだこんなに小さいのに…
彼は、兄のために穴を掘り埋葬したのだ…たった一人で…

悲しいだけじゃない…
きっととても怖かっただろう…
肉親とはいえ死んだ人間なのだから…

どんなに心細くとも頼れる者もなく、本来頼れるべき母親はあんな状態だ…

ジャンの心情を考えると、私もいつしか涙を流していた。



しばらくして、ジャンのすすり泣く声がやんだ…
泣きながら眠ってしまったようだ。

私はジャンを起こさないようにそっと抱き上げると、ベッドにその小さな身体を横たえた。
ジャンの顔の涙を指で拭い、薄い毛布をかけた。



（…せめて眠ってる間だけでも楽しい夢が見られると良いな…）

部屋の灯りを落とし、私はジャンのベッドの傍らに腰を降ろした。
そのままうとうとしているうちに、私もいつの間にか眠っていた。