STORY BOXⅡ

ルカ(聖夜月ルカ)

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099.時空の旅

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灯かりに向かっていくと、そこでは一人の老人が火を焚いていた。
 今から、食事を採るつもりらしい。
 俺は、思わずその爺さんに声をかけてしまった。



 「爺さん…
いきなりで悪いんだけど、もし良かったら…
俺にも少しだけ食べるものをわけてもらえないかな?」

 「どうされました?
もうしばらく行けば町に着くと思いますが…」

 「そうなんだが…ちょっとわけありで、今日はなにも食べてないんだ。
 隣町に行けば友達がいるんだが、それまで持ちそうにない。」

 「そうですか…」

 爺さんは何事かを考えているようだった。
 見れば、身なりも粗末なものだ。
わずかな食べ物でも爺さんにとっては大切なのかもしれない。



 「友達にあったら、必ず食べ物の代金は払うから頼むよ!」

 「……代金は良いのですが…その代わり…」

 「なんだ?なんでも言ってくれ!」

 「食べ物を差し上げる代わりに、この時計ももらっていただけますかな?」

そう言って、懐から金の懐中時計を差し出した。



 「は…?爺さん、何言ってるんだ?
よく考えてから、ものを言いなよ。」

この爺さんは、少しもうろくしてるのかもしれない。
 食べものを分ける代わりに、俺になにかをくれと言うつもりで言い間違えてるんだろう。




 「ちゃんと考えてますよ。
もう一度言います。
 食べ物を差し上げる代わりに、この時計を受け取っていただきたいのです。」

 「爺さん、おかしいじゃないか!
 俺が食べ物をもらうんだぜ。
その代わりに、爺さんが俺からなにか欲しいってことなんじゃないのか?」

 「違います。
この時計を受けとってほしいんです。」

この爺さんは見た目はしっかりしてそうに見えるが、実はかなりいかれてるらしい。
 自分の言ってることがおかしいことに気が付いていない。
とりあえず、適当に返事をしておき、後で時計は返してやることにしよう。
こんなもうろくした爺さんから時計をぶんどるほど、俺は悪党じゃないからな。



 「あぁ、わかった。
じゃあ、それをもらうから、食べ物をくれ。」

 「ありがとうございます…!!」

 「ど、ど、どうしたんだ、爺さん!」

 爺さんはいきなり俺の手を取り、涙を流して何度も礼を言っている。



 (年のせいで情緒も不安定になってるんだな。
 可哀想に…)



 「では、この時計に右手を乗せて『この時計は今日から私のもの』と宣誓してください。」

 「わかったよ。
こうか?
 『この時計は今日から俺のもんだ。』
あ……」

 俺がそう言った瞬間、手の平の中で時計が熱くなったような気がした。
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