STORY BOXⅡ

ルカ(聖夜月ルカ)

文字の大きさ
上 下
101 / 115
079.久遠の絆

しおりを挟む
その日、クレアは何をしていても集中出来ず、時計ばかりに目が行った。



 (父さん、母さん、ラリー、勝手なことをして…迷惑をかけることになってごめんなさい。)

クレアは、家族に向けた短い手紙を認め、封筒の中にそっと押しこんだ。
 両親は、いつも夜遅くまで働き、10時近くにならないと戻らない。
 10歳年下のラリーは、つい先程眠りに就いた。



 (9時半になったら家を出よう…
ラリーのことが少し心配だけど、もう寝てるし、すぐに母さん達も帰って来るから大丈夫よね。)

アーロンの言った通り、ほんのわずかな身の回りのものだけをバッグに詰め、落ち付かない気持ちで家の中を歩き回っていた。
 家の中の何を見ても思い出に繋がり、熱いものが込み上げて来る。



 (あと5分だわ…)

クレアが時計を見上げたちょうどその時、眠ってるはずのラリーがクレアの前に現れた。



 「ラリー…どうしたの?」

 「お…お姉ちゃん…おなかが痛い…」

ラリーの顔には脂汗が滲み、苦痛に顔を歪ませていた。



 「ラリー、しっかりして!
もうすぐ父さん達が帰って来るわ。」

 「痛い…痛いよ、お姉ちゃん…」

ラリーの息遣いは荒く、その痛みが尋常のものではないことをうかがわせた。
その瞬間にクレアの心の中から、アーロンとの約束は消え去っていた。
 今はなによりもラリーのことをなんとかしなくてはならない。
それほどまでに深刻な状況だということにクレアは気付いていた。



 「ラリー、頑張って!
 今、診療所に連れて行ってあげるから!
 頑張るのよ!」

クレアは、ラリーを背負うと、暗い夜道を家の外へ飛び出した。



 「ラリー、しっかりするのよ!
 頑張るのよ!」

 背中のラリーに声をかけながら、クレアは懸命に駆け続けた。
 診療所までは遠く、気持ちが焦るばかりでなかなか辿り着けなかった。
 背中のラリーからの苦しげな呻き声と息遣いが、クレアの耳に届く。
クレアは泣き出したい気持ちを堪えながら、一心不乱に走り続けた。

ようやく、診療所の看板が見えた時、汗に混じってクレアの瞳からは熱い滴が滴り落ちた。



 「先生ーーーー
 お願いします!
 弟が…弟が大変なんです!」

 泣き声まじりに叫びながら、灯かりの消えた診療所の扉をクレアは叩き続けた。

しばらくすると、奥の方から扉に向かって灯かりが近付いて来るのがすり硝子越しに映り、診療所の扉が開かれた。



 「どうしました?」

 白髪頭の老医師の顔を見た途端、クレアは安堵のためへなへなとその場に座りこんだ。



 「せ…先生!
 弟を…お願いします!!」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

お礼(無謀)企画

ルカ(聖夜月ルカ)
ファンタジー
リクエストによるSS集です。 主にファンタジーになるはずです。 リクエスト、激しく募集中! ※表紙イラストはBy.ハチムラリン様です。m(__)m

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばして大バズりしてしまう~今まで住んでいた自宅は、最強種が住む規格外ダンジョンでした~

むらくも航
ファンタジー
Fランク探索者の『彦根ホシ』は、幼馴染のダンジョン配信に助っ人として参加する。 配信は順調に進むが、二人はトラップによって誰も討伐したことのないSランク魔物がいる階層へ飛ばされてしまう。 誰もが生還を諦めたその時、Fランク探索者のはずのホシが立ち上がり、撮れ高を気にしながら余裕でSランク魔物をボコボコにしてしまう。 そんなホシは、ぼそっと一言。 「うちのペット達の方が手応えあるかな」 それからホシが配信を始めると、彼の自宅に映る最強の魔物たち・超希少アイテムに世間はひっくり返り、バズりにバズっていく──。 ☆10/25からは、毎日18時に更新予定!

【完結】月下の聖女〜婚約破棄された元聖女、冒険者になって悠々自適に過ごす予定が、追いかけてきた同級生に何故か溺愛されています。

五城楼スケ(デコスケ)
ファンタジー
※本編完結しました。お付き合いいただいた皆様、有難うございました!※ 両親を事故で亡くしたティナは、膨大な量の光の魔力を持つ為に聖女にされてしまう。 多忙なティナが学院を休んでいる間に、男爵令嬢のマリーから悪い噂を吹き込まれた王子はティナに婚約破棄を告げる。 大喜びで婚約破棄を受け入れたティナは憧れの冒険者になるが、両親が残した幻の花の種を育てる為に、栽培場所を探す旅に出る事を決意する。 そんなティナに、何故か同級生だったトールが同行を申し出て……? *HOTランキング1位、エールに感想有難うございます!とても励みになっています!

処理中です...