STORY BOXⅡ

ルカ(聖夜月ルカ)

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079.久遠の絆

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その日、クレアは何をしていても集中出来ず、時計ばかりに目が行った。



 (父さん、母さん、ラリー、勝手なことをして…迷惑をかけることになってごめんなさい。)

クレアは、家族に向けた短い手紙を認め、封筒の中にそっと押しこんだ。
 両親は、いつも夜遅くまで働き、10時近くにならないと戻らない。
 10歳年下のラリーは、つい先程眠りに就いた。



 (9時半になったら家を出よう…
ラリーのことが少し心配だけど、もう寝てるし、すぐに母さん達も帰って来るから大丈夫よね。)

アーロンの言った通り、ほんのわずかな身の回りのものだけをバッグに詰め、落ち付かない気持ちで家の中を歩き回っていた。
 家の中の何を見ても思い出に繋がり、熱いものが込み上げて来る。



 (あと5分だわ…)

クレアが時計を見上げたちょうどその時、眠ってるはずのラリーがクレアの前に現れた。



 「ラリー…どうしたの?」

 「お…お姉ちゃん…おなかが痛い…」

ラリーの顔には脂汗が滲み、苦痛に顔を歪ませていた。



 「ラリー、しっかりして!
もうすぐ父さん達が帰って来るわ。」

 「痛い…痛いよ、お姉ちゃん…」

ラリーの息遣いは荒く、その痛みが尋常のものではないことをうかがわせた。
その瞬間にクレアの心の中から、アーロンとの約束は消え去っていた。
 今はなによりもラリーのことをなんとかしなくてはならない。
それほどまでに深刻な状況だということにクレアは気付いていた。



 「ラリー、頑張って!
 今、診療所に連れて行ってあげるから!
 頑張るのよ!」

クレアは、ラリーを背負うと、暗い夜道を家の外へ飛び出した。



 「ラリー、しっかりするのよ!
 頑張るのよ!」

 背中のラリーに声をかけながら、クレアは懸命に駆け続けた。
 診療所までは遠く、気持ちが焦るばかりでなかなか辿り着けなかった。
 背中のラリーからの苦しげな呻き声と息遣いが、クレアの耳に届く。
クレアは泣き出したい気持ちを堪えながら、一心不乱に走り続けた。

ようやく、診療所の看板が見えた時、汗に混じってクレアの瞳からは熱い滴が滴り落ちた。



 「先生ーーーー
 お願いします!
 弟が…弟が大変なんです!」

 泣き声まじりに叫びながら、灯かりの消えた診療所の扉をクレアは叩き続けた。

しばらくすると、奥の方から扉に向かって灯かりが近付いて来るのがすり硝子越しに映り、診療所の扉が開かれた。



 「どうしました?」

 白髪頭の老医師の顔を見た途端、クレアは安堵のためへなへなとその場に座りこんだ。



 「せ…先生!
 弟を…お願いします!!」
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