81 / 115
032.花吹雪
4
しおりを挟む
「……ねぇ、ファビアン…
もしも……もしも、あの木がここの壁よりも高くなってたら……
私を背負って登ってくれる?」
ファビアンはウェンディのその言葉を鼻で笑った。
「ウェンディ…そんなこと、あるわけないだろ?」
「だから『もしも』って言ってるじゃない。
本当かどうかなんてどうでも良いの。
もしも、そんなことになってたら…ってことよ。」
「……あぁ、良いぜ。」
「ほ、本当に!?」
ファビアンはただ黙って頷く。
そんな『もしも』があるはずないとわかっていても、ファビアンのその答えはウェンディの胸を熱くさせた。
*
「あ、あれだ!」
「あ……」
木はすぐにみつかった。
集落のはずれの何もない場所に、ひっそりとその木だけが佇んでいたから…
あたりは日当たりもあまり良くなく、そのせいか木等も全く植えられていない。
こんな風に何もない場所だから他の者にもみつからずに済んだのだろうとウェンディは推測した。
「けっこう大きくなってるな…」
「そうね。私達が最後に見た時はまだ私より小さかったのに…」
二人は木の根元に寄り添い、大きく腕を伸ばす枝を見上げた。
「ウェンディ…この木、花が咲くぞ。」
「えっ!?どうして?」
「……小さな蕾がついてる。」
「本当!?」
ファビアンの指差す先を見て、ウェンディは大きく頷いた。
「きっともうすぐ花が咲く…
もしかしたら、何か食べられる実もつくかもしれないな。
良かったじゃないか…
おまえの新しい家はあそこだし、ここからすぐだ。
タークスとの間に子供が出来たら、その子と…」
「やめて!」
感情的な声を上げたウェンディに、ファビアンは口を閉ざした。
「……ウェンディ…この木をよく見るんだ。
この木は大きくはなったけど、壁の高さには程遠い。
壁を乗り越えられるような木なんて、ここにはないんだ。
この先もずっとな…
俺達は、あと少しで別々の相手と結婚をして、別々に暮らしていく。
……死ぬまでずっと離れ離れだ…」
「ファビアン…どうしてそんなことを言うの?
あなたはそれをなんとも思わないの!?」
「思わないね。
それがここでの掟だし、皆、ずっとそうやってこの集落を守って来た。
俺達は一生ここからは出られないし、ここの暮らしは何一つ変わらない…」
「やめて…!
私は…私はまだ諦めない!
最後の最後まで諦めないわ!
だって、私……あなたのことが……あ……」
ファビアンは駆け出した。
ウェンディをそこに残したまま…
一度も振り返ることなく、全速力で……
(ファビアン……)
みるみるうちに小さくなっていくファビアンの姿を目で追いながら、ウェンディはその場に座りこんで泣いた。
もしも……もしも、あの木がここの壁よりも高くなってたら……
私を背負って登ってくれる?」
ファビアンはウェンディのその言葉を鼻で笑った。
「ウェンディ…そんなこと、あるわけないだろ?」
「だから『もしも』って言ってるじゃない。
本当かどうかなんてどうでも良いの。
もしも、そんなことになってたら…ってことよ。」
「……あぁ、良いぜ。」
「ほ、本当に!?」
ファビアンはただ黙って頷く。
そんな『もしも』があるはずないとわかっていても、ファビアンのその答えはウェンディの胸を熱くさせた。
*
「あ、あれだ!」
「あ……」
木はすぐにみつかった。
集落のはずれの何もない場所に、ひっそりとその木だけが佇んでいたから…
あたりは日当たりもあまり良くなく、そのせいか木等も全く植えられていない。
こんな風に何もない場所だから他の者にもみつからずに済んだのだろうとウェンディは推測した。
「けっこう大きくなってるな…」
「そうね。私達が最後に見た時はまだ私より小さかったのに…」
二人は木の根元に寄り添い、大きく腕を伸ばす枝を見上げた。
「ウェンディ…この木、花が咲くぞ。」
「えっ!?どうして?」
「……小さな蕾がついてる。」
「本当!?」
ファビアンの指差す先を見て、ウェンディは大きく頷いた。
「きっともうすぐ花が咲く…
もしかしたら、何か食べられる実もつくかもしれないな。
良かったじゃないか…
おまえの新しい家はあそこだし、ここからすぐだ。
タークスとの間に子供が出来たら、その子と…」
「やめて!」
感情的な声を上げたウェンディに、ファビアンは口を閉ざした。
「……ウェンディ…この木をよく見るんだ。
この木は大きくはなったけど、壁の高さには程遠い。
壁を乗り越えられるような木なんて、ここにはないんだ。
この先もずっとな…
俺達は、あと少しで別々の相手と結婚をして、別々に暮らしていく。
……死ぬまでずっと離れ離れだ…」
「ファビアン…どうしてそんなことを言うの?
あなたはそれをなんとも思わないの!?」
「思わないね。
それがここでの掟だし、皆、ずっとそうやってこの集落を守って来た。
俺達は一生ここからは出られないし、ここの暮らしは何一つ変わらない…」
「やめて…!
私は…私はまだ諦めない!
最後の最後まで諦めないわ!
だって、私……あなたのことが……あ……」
ファビアンは駆け出した。
ウェンディをそこに残したまま…
一度も振り返ることなく、全速力で……
(ファビアン……)
みるみるうちに小さくなっていくファビアンの姿を目で追いながら、ウェンディはその場に座りこんで泣いた。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説


もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

Gift
ルカ(聖夜月ルカ)
ファンタジー
リクエストやら記念に書いたSS集です。
すべて、数ページ程の短編ですが、続き物になっているお話もあります。
私や他のクリエイター様のオリキャラを使ったものや、私のお話の番外編もあります。



【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる