STORY BOXⅡ

ルカ(聖夜月ルカ)

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032.花吹雪

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「……ねぇ、ファビアン…
もしも……もしも、あの木がここの壁よりも高くなってたら……
私を背負って登ってくれる?」

ファビアンはウェンディのその言葉を鼻で笑った。



 「ウェンディ…そんなこと、あるわけないだろ?」

 「だから『もしも』って言ってるじゃない。
 本当かどうかなんてどうでも良いの。
もしも、そんなことになってたら…ってことよ。」

 「……あぁ、良いぜ。」

 「ほ、本当に!?」

ファビアンはただ黙って頷く。
そんな『もしも』があるはずないとわかっていても、ファビアンのその答えはウェンディの胸を熱くさせた。



 *



 「あ、あれだ!」

 「あ……」



 木はすぐにみつかった。
 集落のはずれの何もない場所に、ひっそりとその木だけが佇んでいたから…
あたりは日当たりもあまり良くなく、そのせいか木等も全く植えられていない。
こんな風に何もない場所だから他の者にもみつからずに済んだのだろうとウェンディは推測した。



 「けっこう大きくなってるな…」

 「そうね。私達が最後に見た時はまだ私より小さかったのに…」

 二人は木の根元に寄り添い、大きく腕を伸ばす枝を見上げた。



 「ウェンディ…この木、花が咲くぞ。」

 「えっ!?どうして?」

 「……小さな蕾がついてる。」

 「本当!?」

ファビアンの指差す先を見て、ウェンディは大きく頷いた。



 「きっともうすぐ花が咲く…
もしかしたら、何か食べられる実もつくかもしれないな。
 良かったじゃないか…
おまえの新しい家はあそこだし、ここからすぐだ。
タークスとの間に子供が出来たら、その子と…」

 「やめて!」

 感情的な声を上げたウェンディに、ファビアンは口を閉ざした。



 「……ウェンディ…この木をよく見るんだ。
この木は大きくはなったけど、壁の高さには程遠い。
 壁を乗り越えられるような木なんて、ここにはないんだ。
この先もずっとな…
俺達は、あと少しで別々の相手と結婚をして、別々に暮らしていく。
……死ぬまでずっと離れ離れだ…」

 「ファビアン…どうしてそんなことを言うの?
あなたはそれをなんとも思わないの!?」

 「思わないね。
それがここでの掟だし、皆、ずっとそうやってこの集落を守って来た。
 俺達は一生ここからは出られないし、ここの暮らしは何一つ変わらない…」

 「やめて…!
 私は…私はまだ諦めない!
 最後の最後まで諦めないわ!
だって、私……あなたのことが……あ……」

ファビアンは駆け出した。
ウェンディをそこに残したまま…
一度も振り返ることなく、全速力で……



(ファビアン……)

みるみるうちに小さくなっていくファビアンの姿を目で追いながら、ウェンディはその場に座りこんで泣いた。
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