STORY BOXⅡ

ルカ(聖夜月ルカ)

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032.花吹雪

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「……なんだ、見たくなかったんじゃないのか?」

ファビアンの意地悪な言葉に、ウェンディは顔を背けて俯いた。



 「わ…私は……」

ファビアンに返す言葉がみつからず、口篭もったウェンディの脳裏を不意にかすめるものがあった。



 (そうだわ!)



 「私は家を見に行くんじゃない。
 木を見に行くのよ!」

 「木……?」

 「そうよ!
ファビアン、覚えてない?
 私達がまだ小さい頃に、苗木をみつけたことがあったでしょう?」

 「苗木……?……あ……」



 風で飛ばされて来たのか、それとも鳥によって運ばれたのか…
どうやって来たのかはわかるはずもなかったが、二人がまだ幼い頃、小さな苗木をみつけたことがあった。
 本来ならば、大人に知らせ、何の木かを調べてもらって然るべき所に移されるのだが、子供だった二人はそれを自分達の木にしようと考え、こっそりと集落のはずれに植え替えたのだった。



 「……そういえば、最近全然見てなかったな。」

 「そうね。
 植え替えてしばらくはあんなに毎日通ってたのに…」

 二人は記憶の糸を手繰り、当時のことを思い出す。
 大人にみつからないようにこっそりでかけては、水や肥料を与えたその木のことを…
早く大きくなって、壁よりも高くなれば良いのにと夢見たあの頃のことを…
けれど、苗木の成長は悪く、なかなか大きくならなかった。
そのうちに飽きて来て、毎日行っていたのが数日おきになり、一週間…十日とその間隔は長くなり、いつしか忘れてしまったあの木のことを二人は久し振りに思い出していた。



 「あの頃、よく木に願いをかけたわね。
 早くどんどん大きくなって、壁よりも高く育ってくれるようにって。
 私は、木登りが下手だから、そんな高い木には登れないって行ったら、あなたは私を背負ってその木を登るって言ってくれたわ。」

 「そうだったかな…」

 「そうよ!はっきりとそう言ったわ。
……私、あの時、どれほど嬉しくてどれほどあなたを頼もしいと感じたことか……」

 「子供は無責任なことを言うもんさ。」

ファビアンの辛辣な一言が、ウェンディの顔からはにかんだ笑みを消し去った。
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