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032.花吹雪
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「待ってよ、ファビアン!」
この集落は夜になっても不思議と闇には包まれない。
星や月の明かりで出歩くのに不自由のない程度の明るさが感じられる。
「ウェンディ…俺はただそこらへんをぶらぶらするだけだぜ。
わざわざ着いて来る程のことでもないだろ。」
「……ファビアン…あなた、最近、とても冷たいわね。」
「俺はいつもと何も変わらない。」
そんなことない…
以前のあなたはもっと優しかった。
言いかけたその言葉をウェンディは飲みこんで、ファビアンの少し後ろを歩いて行く。
「ファビアン……あの…マギーのことは…どう思ってるの?」
ウェンディは躊躇いながら、以前からファビアンに聞いてみたかった質問を投げかけた。
「どうって…どうもこうもあんまり話したこともないから、なんとも言えないよ。
ただ…ラッドとは仲が良いらしいから、少し申し訳ないような気持ちはあるかな。」
「ラッドとの間には子供が出来てないから仕方ないわ。
……それにしてもどうしてここではこんなに子供が生まれないのかしら?」
「そんなこと、知らないね。」
吐き捨てるようにそう言うと、ファビアンは歩く速度を速めた。
(あと少ししか一緒にいられないのに、どうしてファビアンはこんな風なのかしら…)
寂しさと苛立ちを同時に感じつつ……
それでも、ウェンディは小走りでファビアンの後を着いて行った。
「確か……」
「え?」
「ウェンディの新しい家はあっちの方だったよな。
ずいぶん出来てるって母さんが言ってたけど…おまえはもう見たのか?」
「……いいえ。
まだ見てないわ。」
「じゃあ、今から見に行こう。」
「……見たくないわ。」
そう言って顔を背けたウェンディに、ファビアンは束の間黙りこむ。
「そうか……じゃ、俺だけで行って来る。」
「ファビアン…!」
肩を怒らせ、拳を握り締めて、ウェンディはファビアンの後ろ姿をみつめた。
(なんて意地悪なのかしら…!)
心の中でファビアンに悪態を吐き、ファビアンに背を向けたウェンディだったが、ほんの数歩進んだだけで不意に立ち止まる。
(ファビアンの馬鹿…!)
ウェンディは再び身体の向きを変え、唇を噛み締めながらファビアンの後を追い掛けた。
「待ってよ、ファビアン!」
この集落は夜になっても不思議と闇には包まれない。
星や月の明かりで出歩くのに不自由のない程度の明るさが感じられる。
「ウェンディ…俺はただそこらへんをぶらぶらするだけだぜ。
わざわざ着いて来る程のことでもないだろ。」
「……ファビアン…あなた、最近、とても冷たいわね。」
「俺はいつもと何も変わらない。」
そんなことない…
以前のあなたはもっと優しかった。
言いかけたその言葉をウェンディは飲みこんで、ファビアンの少し後ろを歩いて行く。
「ファビアン……あの…マギーのことは…どう思ってるの?」
ウェンディは躊躇いながら、以前からファビアンに聞いてみたかった質問を投げかけた。
「どうって…どうもこうもあんまり話したこともないから、なんとも言えないよ。
ただ…ラッドとは仲が良いらしいから、少し申し訳ないような気持ちはあるかな。」
「ラッドとの間には子供が出来てないから仕方ないわ。
……それにしてもどうしてここではこんなに子供が生まれないのかしら?」
「そんなこと、知らないね。」
吐き捨てるようにそう言うと、ファビアンは歩く速度を速めた。
(あと少ししか一緒にいられないのに、どうしてファビアンはこんな風なのかしら…)
寂しさと苛立ちを同時に感じつつ……
それでも、ウェンディは小走りでファビアンの後を着いて行った。
「確か……」
「え?」
「ウェンディの新しい家はあっちの方だったよな。
ずいぶん出来てるって母さんが言ってたけど…おまえはもう見たのか?」
「……いいえ。
まだ見てないわ。」
「じゃあ、今から見に行こう。」
「……見たくないわ。」
そう言って顔を背けたウェンディに、ファビアンは束の間黙りこむ。
「そうか……じゃ、俺だけで行って来る。」
「ファビアン…!」
肩を怒らせ、拳を握り締めて、ウェンディはファビアンの後ろ姿をみつめた。
(なんて意地悪なのかしら…!)
心の中でファビアンに悪態を吐き、ファビアンに背を向けたウェンディだったが、ほんの数歩進んだだけで不意に立ち止まる。
(ファビアンの馬鹿…!)
ウェンディは再び身体の向きを変え、唇を噛み締めながらファビアンの後を追い掛けた。
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