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021.銀の鳥籠
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「エレナ、今日はお天気で気持ちが良いわね。」
車椅子に乗せられた無表情のエレナは虚ろな瞳で遠くをみつめるだけで、返事はなかった。
それでも、若い看護士は優しくエレナに話しかける。
「あの子、まだあんな調子なのね。
でも、外にいる時はあれでも少しは楽しそうね。」
その様子を見かけた中年の女性が、隣のベッドの女性に話しかける。
「あの子…?あの子がどうかしたのかい?」
「え?……あ、そっか、あなた、まだ入院して来たばかりだから何も知らないのね…
実はあの子はね…」
中年の女性は、平和なこの町で起こったちょっとした事件について話し始めた。
その事件は、今から一月程前のことだった。
ある女性が昔の恋人の部屋で、すでに冷たくなった男性をみつけた。
二人は恋人同士だったが、男性の方に上司の娘との縁談が持ち上がり、そこから二人の関係は崩れていった。
男性は、女性のことを変わらず愛していたが、昔からの恩義のある上司の娘との縁談を簡単には断ることが出来なかった。
女性は、男性の将来を案じ、自ら身を引いた。
しかし、男性はどうしても女性のことを忘れることが出来なかった。
愛と恩義…そのうちのどちらか片方を選ぶことは、男性にはどうしても出来ず、男性は悩んだ末に自ら命を断った。
男性の亡骸を見て、大きなショックを受けた女性は、その晩、薬を飲んで彼の後を追った。
幸いにも、女性の部屋の隣に住む友人がそれをみつけ、女性は命を取り止めた。
しかし、それ以来、女性は心を失った人形のようになっている。
それが、先程の女性・エレナだということを…
「へぇ、そんなことがあったのかい。
そりゃ気の毒にねぇ…」
「なんでも、その前日、元の彼氏から意味ありげな手紙が来たんだってよ。
『さようなら。僕は遠くから君の幸せを祈ってる』とかなんとか書いてあったそうでね。
それで、あの子が心配になって見に行ったら、彼氏は毒を飲んで死んでたらしいんだよ。
びっくりしただろうね。
あのくらいの年頃だったら、後を追いたくなる気持ちもわからないでもないね。
あの子は親兄弟もいないらしいからなおさらだね。
きっと、あの世で添い遂げようとでも思ったんだろうね。」
「若いうちは純粋だからね。
誰が悪いってわけでもないのに、本当に気の毒な話だよ。」
二人の中年女性は、神妙な顔を見合せて頷いた。
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「エレナ、今日はお天気で気持ちが良いわね。」
車椅子に乗せられた無表情のエレナは虚ろな瞳で遠くをみつめるだけで、返事はなかった。
それでも、若い看護士は優しくエレナに話しかける。
「あの子、まだあんな調子なのね。
でも、外にいる時はあれでも少しは楽しそうね。」
その様子を見かけた中年の女性が、隣のベッドの女性に話しかける。
「あの子…?あの子がどうかしたのかい?」
「え?……あ、そっか、あなた、まだ入院して来たばかりだから何も知らないのね…
実はあの子はね…」
中年の女性は、平和なこの町で起こったちょっとした事件について話し始めた。
その事件は、今から一月程前のことだった。
ある女性が昔の恋人の部屋で、すでに冷たくなった男性をみつけた。
二人は恋人同士だったが、男性の方に上司の娘との縁談が持ち上がり、そこから二人の関係は崩れていった。
男性は、女性のことを変わらず愛していたが、昔からの恩義のある上司の娘との縁談を簡単には断ることが出来なかった。
女性は、男性の将来を案じ、自ら身を引いた。
しかし、男性はどうしても女性のことを忘れることが出来なかった。
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男性の亡骸を見て、大きなショックを受けた女性は、その晩、薬を飲んで彼の後を追った。
幸いにも、女性の部屋の隣に住む友人がそれをみつけ、女性は命を取り止めた。
しかし、それ以来、女性は心を失った人形のようになっている。
それが、先程の女性・エレナだということを…
「へぇ、そんなことがあったのかい。
そりゃ気の毒にねぇ…」
「なんでも、その前日、元の彼氏から意味ありげな手紙が来たんだってよ。
『さようなら。僕は遠くから君の幸せを祈ってる』とかなんとか書いてあったそうでね。
それで、あの子が心配になって見に行ったら、彼氏は毒を飲んで死んでたらしいんだよ。
びっくりしただろうね。
あのくらいの年頃だったら、後を追いたくなる気持ちもわからないでもないね。
あの子は親兄弟もいないらしいからなおさらだね。
きっと、あの世で添い遂げようとでも思ったんだろうね。」
「若いうちは純粋だからね。
誰が悪いってわけでもないのに、本当に気の毒な話だよ。」
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