STORY BOXⅡ

ルカ(聖夜月ルカ)

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014.賢者の石

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 『ジュリアン、なぜあんな嘘を吐いた?
あれはただのプレナイトではないか。
 試験に受かるという安心感を与えたかったのか?』

 「嘘なんかじゃないぜ。
プレナイトは判断力を高めると言われてるし、頭脳明晰の石とも呼ばれてるからな。
まさしく賢者の石じゃないか。」

 『……なるほど、そういうことだったのか…
おまえらしいな。
まぁ、あの男は本当に様々なことを勉強しているようだし、そんなものを持っていなくてもきっと立派な医師になれるだろう。』

 「人間は迷信めいたことに弱いからな。
それで安心出来るのなら、信じた方が良いじゃないか。
……しかし、珍しいな。
おまえでも誰かを誉めることがあるんだな!」

 『当たり前だ。
 客観的に見て優れていると思う者のことは誉めるぞ。』

 「たまには俺のことも誉めろよな!」

 『おまえに誉める所があれば、いつでもそうするがな…』

 「ちっ…」



エレスはいつもと同じように憎まれ口を叩き、ジュリアンはそれに言い返す言葉をみつけられないままに、いつしか眠りに就いていた。



 *



 「じゃあ、ガエタン!頑張れよ!
あんたならきっと合格するさ!」

ジュリアンは、朝早くにガエタンを見送りに行った。
 両親にも誰にも告げず、まだ夜が空けきらないうちにここを出て行くことを、前夜、ジュリアンは聞いていたのだ。



 「ありがとう、ジュリアンさん。
 僕は、必ず、合格して医者になります。
……そして、すぐにここに戻って来ます。」

 「……ここに?」

 「はい。
 昨日、僕は気付いたんです。
 両親が一番喜んでくれるのは、僕が医者として成功することでも楽な生活をすることでもなく、この町に戻って、ここで病人を助けることなんだと…
大きな町に行くほど、たくさんの人を救える…それが一番良いことなんだと思ってましたが、そうではなかった。
 助ける人数が大切ではないんですね。
この町に医者がいてくれたら妹は死ぬことはなかったかもしれません。
 僕はこの町で、この町の人々を救いたい…なぜだか急にそう思ったんです。」

 「……良いじゃないか!
ここに腕の良い医者がいるって評判になったら、この町に住む者も増えるかもしれない。
そしたら救える人数も増えることになるんじゃないか?!」

 「そうだと嬉しいんですが…
じゃあ、ジュリアンさん、僕、そろそろ行きます。
また機会があったらこの町にもぜひ立ち寄って下さいね!」

 「あぁ、その時はガエタン先生の診療所を訪ねることにするよ!」

ガエタンは手を振りながら町を出て行った。
 顔には晴れやかな微笑を浮かべて…



「……やっぱり、あれは賢者の石だったんだな。」

 『どういう事だ?』

 「プレナイトは、物事の本質を見極める石だとも言われるんだ。
 奴は自分がなにをすべきか、はっきりしたんだろうな。
 真実に気付くのは賢者じゃないか!」

 『なるほどな…
しかし、もしかしたらマティルダとかいう女性のためかもしれないぞ?』

 「それでも良いじゃないか。
……いや、きっとそうなるぜ。
なんたって、マティルダは『愛を運んで来る石』を持ってるんだからな!」

 『それで、あのピンクカルサイトをマティルダにやったのか?』

 「いや、違う。
あの石がマティルダの所に行きたいって言ったのさ。」




 少しずつ東雲色に染まっていく空をみつめながら、ジュリアンはにっこりと微笑んだ。
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