STORY BOXⅡ

００７．迷いの森

１１

「……ジネットさん…
あなたはどなたなんですか？」

ヴェールが、哀しい視線をジネットに向けた…



「ヴェールさん、何をおっしゃってるんです…？
 私はジネットです。
あなたの妻のジネットです。
それはあなたにもおわかりのはず。
 夢でも幻でもない生身のジネットだということが…」

 「ジネットさんは亡くなりました。
 私がどんなに強く願おうと…死んだ者は二度と生き返ることはありません…」

 「やめて！
 私はジネットです！
 死んでなどいません！
 昨夜のことをもうお忘れになったとおっしゃるのですか？
あんなに情熱的に愛し合ったというのに…
ほら、ヴェールさん、これが死人の唇ですか？」

ジネットはヴェールの首に両手を回し、その唇にくちづけた。
 熱い吐息と共に、やわらかなジネットの唇の感触がヴェールをとろけさせる。



 「……私にはわからない…
ただ、私にわかっているのは、一度死んだ人は二度とよみがえることはないということと…
 ……そして、あなたはジネットさんではないということだけです。」

 「なぜです？！
なぜ、そんなひどいことをおっしゃるのです！」

ジネットの熱い涙がヴェールの胸に染みこんでいく…



「本当のジネットさんならさっきのようなことは絶対におっしゃらない…
彼女は、自分の気持ちを優先させるような人ではなかった…
あなたが本当のジネットさんであるならば…
命を賭けて産んだクリストを、放っておけば良いなんてことを言うはずがないのです。
 私の恩人であるレヴさんをそんなに軽く見る人ではないのです！」

 「ヴェールさん…」

ヴェールの瞳からも大粒の涙がこぼれていた。



 「……あなたは私といて幸せではなかったのですか？
ずっとここにいたいとは思われなかったのですか？」

 「とても幸せでした…
あなたとずっと一緒にいられるのなら、これ以上の幸せはありません。」

 「では、なぜ…」

 「私には責任があるのです…
クリストを立派に育て、森の民の長として生きていくという責任が…」

 「私よりもその方が大切なのですか？」

 「私は誰よりもジネットさんを愛しています。
だからこそ、彼女の期待にこたえたい…
彼女に恥ずかしくない生き方をしたくないのです…
ここで、自分の感情に流されあなたと一緒に暮らしたら…
本当のジネットさんは絶対に喜ばない…」

 「……ここにいれば、あなたは幸せになれるのに…」

ヴェールは、ゆっくりと首を横に振った。